ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 すらりと背が高く、驚くほど小顔で、八頭身の綺麗なシルエット。見覚えがありすぎるその立ち姿に、私の足が思わずぴたりと止まった。

 まさか、嘘でしょ……?

「すみません九条先生、よろしいですか?」

 案内してくれていた事務長の声に、ハッと息を呑んだ。

 えっ? 今、くじょうって言った?

 心臓がドクンと跳ね上がり、全身の血が音を立てて引いていくような嫌な予感が駆け巡る。

 白衣の医師がゆっくりと振り返った。

「はい」

 聞き覚えのある、低くて心地のいい声。首を回したその人は、紛れもない――九条凌久。

 なぜ彼がここにいるのか。
 彼はほかの病院に勤務しているはず。

 しかも待って? 副院長?
 まだ二十代なのに?

 動揺のあまり頭の中が真っ白になり、回れ右をして今すぐこの綺麗な病院から逃げ出したくなる。

 そんな私の内心のパニックなど露知らず、事務長が朗らかに彼へと声をかけた。

「九条先生、こちら本日から看護師として来ていただく雪村深結さんです」

「九条です。どうぞよろしく。では中にどうぞ」
< 83 / 118 >

この作品をシェア

pagetop