ブルーヘヴンの彼方に


「私も…………好き」


 耳を疑った。

「え?」

「私も、ずっと……あなたに会いたかった」
 若葉ちゃんの頬を、涙が伝った。

「若葉ちゃん……」

 風向きが変わる。

 彼女が、僕の方へ向き直った。
 夕陽を受けた黒髪が、風に揺れている。

「私、恋なんてしないと思ってた」
 ゆっくりと、彼女は話し始めた。

「誰かを本気で好きになるなんて、私にはないと思ってた。どんなに好きになっても、いつか終わる時が来るんだって……ずっと、ママを見てそう思ってたの」

 静かな波の音。

「怖かったんです。誰かを好きになって、その人が大切になって……いつか終わる日が来るのが」
 潤んだ瞳が、僕をまっすぐ見ている。

「だったら最初から好きにならなければ、傷つかなくて済むって」
 きっと彼女が怖かったのは、恋そのものじゃない。
 大切な人を失うことだったんだ。

「でも、今は――」
 その声には、もう迷いがなかった。

「たとえどんな終わりが来ても……エディさんのそばにいたい」
 その瞬間。

 僕は、若葉ちゃんを抱きしめた。

「……っ」
 驚いたように、彼女の身体が少し揺れる。

「あの……エディさん?」
 もう無理だった。
 これ以上、言葉だけで抑えていられない。

「ごめん」
「え?」
「終わらせない」
 そう言って。

 僕は、彼女に口づけた。

 触れるだけの、短いキス。

 若葉ちゃんの唇が、小さく震えている。
 一度離れようとした時。
 ほんの僅かに。
 彼女の方からも、触れるような感触が返ってきた。

「……」
 胸の奥が、熱くなる。
 もっと強く抱きしめたくなる。
 でも。

 大切にしたい。
 何よりも。

「若葉ちゃん」
「……はい」
「これからは、僕が君のそばにいる」
 水平線へ、夕陽が沈んでいく。

 空が少しずつ、紺碧へ変わっていく。

「僕じゃ頼りないかもしれない。でも、君を悲しませるようなことは絶対にしない」
 その時。

 どこからか、鐘の音が響いた。
 風に揺られた、恋愛成就の鐘。
 高鳴る鼓動と重なる。

「だから――」
 僕は、彼女の目を見た。

「僕と、付き合ってくれないか」
「……はい」

 僕らの始まりを告げる鐘。
 それは、君からの“YES”のサインみたいだった。

「大切にするよ」

 今はまだ、“愛してる”なんて言葉は早い気がする。
 だから。

 今は、たくさんの“好き”を伝えていこう。

「ありがとう、エディさん……」

 そう言って笑った若葉ちゃんは。

 今日まで見た誰よりも――
 綺麗だった。

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