ブルーヘヴンの彼方に
第四楽章『神の祝福』エディSide②
HAPPY BIRTHDAY
五月九日。
今日は、若葉ちゃんの十九歳の誕生日だ。
「やっと僕と同い年になったね」
「うん。でも、四カ月もすれば今度はエディさんが一足先に大人になるじゃない」
「まぁね。やっとお酒も煙草もいける歳になるんだと思うと、十八歳が成人っていうのも何となく都合がいい気がするよね。肝心なところでは自己責任を問われて、今まで守られていたものから急に放り出されるのに、部分的にはまだ法に縛られてる。結局、十代はまだ子ども扱いなんだなって」
期間限定の同い年。
そんな些細なことすら特別に思えるのは、リア充の特権というやつなのだろう。
身をもって知った。
例のダブルデートは一度白紙になったものの、梨歩の回復が思いのほか早く、先日ようやく実現した。
そして山本――もう敬う気にもならないので呼び捨てでいい――には、一泡も二泡も吹かせてやった。
特に武蔵君の変貌ぶりは相当堪えたらしく、悔しかったのか謎の経験値マウントを取り始めた。
ところが、武蔵君の彼女・玲美ちゃんに、
「ねぇ、さっきから何を自慢したいのかわかんな~い。そういうの超絶ダサいからやめたほうがいいよぉ」
と一刀両断され、自爆。
かなりショックを受けていた。
その後、今度は若葉ちゃんに狙いを定めたらしく、鼻の下を伸ばしながら胸元を覗こうとしていたので、僕はマネキン入りのボストンバッグで弾き飛ばしてやった。
何か言っていたけれど、聞こえないふりをして、その後は目一杯楽しんだ。
誰も傷つけない。
思いやりに満ちた時間。
それこそが、究極の幸せなのだと思う。
ああ。
恋って、不思議だ。
大切なものを守ろうと思うだけで、恐怖や不安すら、正義や勇気に変わる。
そんな清々しい気持ちで迎えた、彼女の誕生日。
「今日は、若葉ちゃんに見せたいものがあって」
誕生日に何をプレゼントするか。
もちろん考えた。
考えたけど、考えれば考えるほど、何が正解なのかわからなくなって。
結局――僕は考えるのをやめて、僕が一番したいことをすることにした。
「見せたいもの?」
「うん。ついてきて」
ここは、僕のバイト先。
今日は定休日で、店は閉まっている。
「あ~らぁ、相変わらずお熱いわねえ」
この人は、いつだって神出鬼没だ。
「え、ロゼさん? こんにちは……」
休日にも店にいるなんて仕事熱心なんだな、と若葉ちゃんなら思うかもしれない。
いや。
そんなことはない。
「相変わらず暇そうだね」
「オ~ッホホホ。姐さまをなめんじゃないわよ、エディ。ほら、こっちよ」
「サンキュー」
ロゼさんはカフェの裏口を開け、バックヤードへ続く通路に僕たちを招き入れた。
「ささ、今日は思う存分暴れてきなさい。見張っててあげるから」
「え、暴れるって?」
「いいから、若葉ちゃん。とりあえずこっち」
僕は彼女の手を引き、地下へ続く階段を下りていく。
「もう少しで着くからね」
「う、うん……」
何の説明もなしに地下へ連れてこられたら、そりゃ不安にもなるか。
若葉ちゃんの表情が、少しずつ強張っている。
「ここまで来れば大丈夫かな」
「あ、あの。エディさん」
「何?」
「えっと……私、心の、準備が……」
「ああ、緊張してるの? それなら大丈夫だよ。もうすぐ着くから」
「えっと、そうじゃなくて……」
何か言いたげだ。
「ほら、着いたよ」
「えぇっ!!」
何故かいつにも増してオーバーリアクション。
まあ、面白いからいいんだけど。
僕がドアノブに手をかけた瞬間。
「ちょ、ちょっと……ま、待って……!」
若葉ちゃんが必死に僕の腕を掴んだ。
「ちょ、若葉ちゃん。どうしたの?」
「ここ、密室……だったり、する?」
「あ、うん。まあ、防音だからね。音は外に漏れない作りになってるよ」
「!! あ、あの。私、やっぱり――」
ガチャッ。
僕はドアを開いた。
今日は、若葉ちゃんの十九歳の誕生日だ。
「やっと僕と同い年になったね」
「うん。でも、四カ月もすれば今度はエディさんが一足先に大人になるじゃない」
「まぁね。やっとお酒も煙草もいける歳になるんだと思うと、十八歳が成人っていうのも何となく都合がいい気がするよね。肝心なところでは自己責任を問われて、今まで守られていたものから急に放り出されるのに、部分的にはまだ法に縛られてる。結局、十代はまだ子ども扱いなんだなって」
期間限定の同い年。
そんな些細なことすら特別に思えるのは、リア充の特権というやつなのだろう。
身をもって知った。
例のダブルデートは一度白紙になったものの、梨歩の回復が思いのほか早く、先日ようやく実現した。
そして山本――もう敬う気にもならないので呼び捨てでいい――には、一泡も二泡も吹かせてやった。
特に武蔵君の変貌ぶりは相当堪えたらしく、悔しかったのか謎の経験値マウントを取り始めた。
ところが、武蔵君の彼女・玲美ちゃんに、
「ねぇ、さっきから何を自慢したいのかわかんな~い。そういうの超絶ダサいからやめたほうがいいよぉ」
と一刀両断され、自爆。
かなりショックを受けていた。
その後、今度は若葉ちゃんに狙いを定めたらしく、鼻の下を伸ばしながら胸元を覗こうとしていたので、僕はマネキン入りのボストンバッグで弾き飛ばしてやった。
何か言っていたけれど、聞こえないふりをして、その後は目一杯楽しんだ。
誰も傷つけない。
思いやりに満ちた時間。
それこそが、究極の幸せなのだと思う。
ああ。
恋って、不思議だ。
大切なものを守ろうと思うだけで、恐怖や不安すら、正義や勇気に変わる。
そんな清々しい気持ちで迎えた、彼女の誕生日。
「今日は、若葉ちゃんに見せたいものがあって」
誕生日に何をプレゼントするか。
もちろん考えた。
考えたけど、考えれば考えるほど、何が正解なのかわからなくなって。
結局――僕は考えるのをやめて、僕が一番したいことをすることにした。
「見せたいもの?」
「うん。ついてきて」
ここは、僕のバイト先。
今日は定休日で、店は閉まっている。
「あ~らぁ、相変わらずお熱いわねえ」
この人は、いつだって神出鬼没だ。
「え、ロゼさん? こんにちは……」
休日にも店にいるなんて仕事熱心なんだな、と若葉ちゃんなら思うかもしれない。
いや。
そんなことはない。
「相変わらず暇そうだね」
「オ~ッホホホ。姐さまをなめんじゃないわよ、エディ。ほら、こっちよ」
「サンキュー」
ロゼさんはカフェの裏口を開け、バックヤードへ続く通路に僕たちを招き入れた。
「ささ、今日は思う存分暴れてきなさい。見張っててあげるから」
「え、暴れるって?」
「いいから、若葉ちゃん。とりあえずこっち」
僕は彼女の手を引き、地下へ続く階段を下りていく。
「もう少しで着くからね」
「う、うん……」
何の説明もなしに地下へ連れてこられたら、そりゃ不安にもなるか。
若葉ちゃんの表情が、少しずつ強張っている。
「ここまで来れば大丈夫かな」
「あ、あの。エディさん」
「何?」
「えっと……私、心の、準備が……」
「ああ、緊張してるの? それなら大丈夫だよ。もうすぐ着くから」
「えっと、そうじゃなくて……」
何か言いたげだ。
「ほら、着いたよ」
「えぇっ!!」
何故かいつにも増してオーバーリアクション。
まあ、面白いからいいんだけど。
僕がドアノブに手をかけた瞬間。
「ちょ、ちょっと……ま、待って……!」
若葉ちゃんが必死に僕の腕を掴んだ。
「ちょ、若葉ちゃん。どうしたの?」
「ここ、密室……だったり、する?」
「あ、うん。まあ、防音だからね。音は外に漏れない作りになってるよ」
「!! あ、あの。私、やっぱり――」
ガチャッ。
僕はドアを開いた。