愛だけは、裏切らなかった
 月曜日の朝は、全校集会がある。
 体育館に集められても、生徒の半数はまだ学校に来ていない。

 見知らぬ先輩に絡まれて、それをクラスのギャルたちがからかってくる。

「若葉って本当に男に好かれるよね」

「顔だけなのにね。話していてもノリ悪いし」

 面倒くさいなぁ。
 私は勉強をしに学校に来ているのであって、他人のストレスをぶつけられるためにいるんじゃないの。

 そんなに楽しいの、それ?
 毎回毎回、逃げ場がなくて本当に面倒。

 横目で三年生の列を見る。
 雷は欠伸を噛み殺し、気だるげに立っていた。

「雷先輩、かっこいい」「眠そうなのがエロい」なんて女子たちの注目の的だ。
 ただ突っ立っているだけなのに、何あれ。

 雷のとなりにいた道端先輩が小さく手を振った。
 周りから「きゃあ!」という黄色い悲鳴が上がる。
 あの人もモテるんだよなぁ。

「また若葉だよ」

 誰かの声を耳が拾ってしまう。
 勝手に手を振られただけなのに、嫉妬を生んでしまう。
 早く校長の話が終わらないかな……と思った。

 もう一度盗み見ると、一瞬だけ視線がぶつかった。
 けれど、雷は澄ました顔をしていた。


 *   *   *


 仮病を使って保健室で眠っていると、カーテンの向こうから雷が声をかけてきた。

「ヨウ」

「……先生は?」

「席を外しているって看板が掛かってた。誰もいないよ」

 カーテンの中に入ってきた雷は、ベッドの縁に腰掛けた。大きな手が私の髪を撫でる。

「真面目そうな顔して、不良だよね。ヨウは」

 仮病を使って保健室。
 意外とこれが信用されるのだ。
 先生たちは心配そうにして許してくれるから助かる。

「雷だってサボってるくせに」

「……会いたくなったから」

「放課後になればいくらでも会えるのに?」

 言い返せば、細められた雷の目に欲を感じた。
 ――これはまずい。

「保健室だから何もしないで」

「……うん」


「傍にいるのは、いい?」なんて確認してくる。
 駄目なんて言えなくなる顔で。

「いいよ」

 今だけは、学校の中で息が楽だなと思った。

 しばらく静かに過ごしていると、勢いよくドアが開く音がした。先生とギャルたちの声。

「だからー、本当にお腹が痛いんだって」

「元気じゃない、あなたたち。揃いも揃って腹痛なんてあるわけないでしょう。教室に帰りなさい」

 カーテン越しに聞こえるやり取り。
 雷は私の傍で息を潜めている。

 ……見つからないよね?

「若葉は寝てるんでしょう? なんであの子は優遇されるの。あのビッチが」

「こら! そんな言葉を使わないの!」

「あんな顔して裏では何してるか分かんないよ。ああいう子が信用できないんだって」

 養護教諭である先生が注意をするけれど、こちらに聞こえるように悪口のオンパレードが始まった。

「やめなさい! 若葉さんは本当に体調が悪いの。ほら、出ていって」

 いいえ、嘘ですよ。

 なんて言えるはずもないなぁ……なんて呑気に考えていたら、雷はカーテンの向こうを睨んでいた。

「駄目だよ」

 小声で囁く。
 ここで出ていかれたら、大騒ぎになる。

「……分かってる。ヨウが許可してないから」

「……」

 まるで許可すれば暴れまわるみたいで、凶暴性にゾッとした。

 しばらくすればギャルたちは出ていき、先生に「若葉さん、大丈夫?」と声を掛けられた。
 雷と目を合わせながら「大丈夫です」とカーテンの向こうに私は返事をした。

「やっぱり不良だ」

 楽しそうに雷が笑っていた。


 
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