きみが待つ空へ ~敏腕パイロットは命をかけて愛を守る~

8 あなたと生きる

 私は、座席の窓から、遠ざかっていく街を見つめていた。
 機体が上昇していくにつれ、窓の向こうの街が小さくなっていく。
 眼下に、ところどころオレンジ色の光が見えた。
 黒い煙を引きながら、炎が立ち昇っている場所もある。
 一部では戦闘が始まっているのだろうか。
 刻一刻と情勢が悪化していることは、嫌でも思い知らされた。
 たとえ風の影響であっても、機体が揺れるたびに体が強張る。
 私は、胸元のネックレスに手のひらを当てた。
 大丈夫。
 絶対に大丈夫。
 この機は、颯さんが操縦しているのだから。

 乾いた口に水を含むこともできないまま、数時間が過ぎた。
 やがて、頭上のスピーカーからノイズが流れ、私は、ハッとして、うつむいていた顔を上げる。
「皆様にお知らせいたします」
 颯さんの声だ。
「当機は、ただいま、無事イラードの領空を離れ、トルコの領空に入りました。このままイスタンブール空港まで安全に飛行を続けてまいります。どうぞ安心してお過ごしください」
「……っ!」
 全身を覆っていた緊張が、一気にほどけた。
 イラードの領空を抜けた。
 あの危険な空を離れたのだ。
 腕時計は、19時40分を指していた。
 間一髪だった。
 どよめきが広がり、機内は割れんばかりの拍手と安堵の声に包まれる。
 目の奥が熱くなって、涙が滲んできた。

 ありがとう……ありがとう、颯さん。
 危険を顧みず、私たちを救いに来てくれた勇気。
 人の命を担うことをためらわない、責任感の強さ。
 どんなに不安な時でも、彼なら大丈夫だと思わせてくれる、揺るぎない頼もしさ。
 それらすべてに、尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
 颯さんへの想いが、胸一杯に溢れてくる。
 早く、会いたい。
 会って、この気持ちを伝えたい。
 あなたの存在が、あなたの言葉が、どれほど心強かったか。
 どれほどあなたを信じていたか。
 そして――
 どれほどあなたを大切に思っているか。
 直接、伝えたい。
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