ただいまは戦闘開始のゴング
Interval
カチャリ、と浴室のプラスチックの扉が閉まる。
ジャーッと勢いよく水が床を叩く音が響き、白濁したすりガラスが熱い湯気でじんわりと曇っていく。一枚の扉を隔てた、束の間のインターバル。
頭から浴びるシャワーの熱さに紛れ込ませて、彼は深く息を吐き出していた。
胃のあたりが、まだ煮込みハンバーグの重みでキリキリと痛む。
エレベーターの話――咄嗟に出たにしては上出来だったはずだ。
だが、彼女のあの冷ややかな微笑みが脳裏から離れない。
信じていない。
絶対に、一ミリも信じていない。あの女は、「自分がそういう嘘をつく生き物だ」ということまで織り込み済みで楽しんでいる。
棚に置かれたシトラスウッドのボディソープを手に取る。泡立てると、濃厚な香りが浴室いっぱいに広がった。
全部洗えってことかよ……外の匂いも、やましい気配も、残らずこれで塗りつぶせってことか?
泡で首筋を激しく擦りながら扉の向こうの気配を伺う。
ここを出たら、寝室だ。どう立ち回る?
どうやって今夜を生き延びる――。
激しいシャワーの音に、パタ、パタ、と乾いたリズムが重なる。
脱衣所の鏡の前で、私はゆっくりと冷たい化粧水を肌に叩き込んでいた。
エレベーターで急停止、ねぇ……
よくもまあ、コンマ数秒であんな安っぽいドラマみたいなプロットをでっち上げたものだ。
けれど、私の柔軟剤を盾にして「妻自慢」で包み返してきたあの腕前だけは、素直に褒めてあげてもいい。
鏡に映る自分の顔を確かめる。赤みは引いた。呼吸も整った。
不意打ちのカウンターで少し熱くなった頭は、もう完全に冷え切っている。
シャワーの音がピタリと止まり、足音が近づいてくる。
すりガラスの向こうの影が動くのを見つめながら、私は今夜一番の、完璧に甘い笑顔を唇にセットした。
脱衣所のドアが開き、シトラスウッドの湯気とともに彼が出てくる。
濡れた髪、少し伏せがちな視線。
まだ私の顔色をうかがうように、ぎこちなく距離を取ろうとする彼を、私は逃がさない。
「髪、乾かしてあげる」
差し出したタオルの奥で、第4ラウンドのゴングが静かに鳴った。