深海のカフェ冬銀河〜破滅ではなくマスターに堕ちてゆく〜
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私は、ベットの上で我に返った。自分の部屋のベットの上。夢を見ていたわけではない。眠っていたわけでもない。右手には私が大好きな小説。
その小説はカフェを舞台にした短編集で。様々なお客様がカフェを訪れる。小説のタイトルは『深海のカフェ冬銀河』。マスターの名前は、星野柊夜。
そう。私は、不安の輪郭がはっきりと浮かび上がってしまっているからこそ、ぼんやりとした不安に駆られていた。
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数ヶ月前、急に海に行きたくなって。
レトロで可愛らしいアースカラーの車を走らせた。
海岸沿いの駐車場に車を停めて、砂浜へ。
海を見つめていると自分の呼吸と心音、波の音が重なってきて。
子供の頃、この海沿いの街に住んでいた。夏になると、砂浜で花火をしたことを昨日のことのように思い出す。その頃は、そんなに派手な花火はなかったけれど。誰が見ても綺麗だな、と感じる情緒的な花火。私は、冬が好きで、夏は苦手。だけど、夏の夜の海は好きだった。そんなどうでもいいようで大切な過去の記憶が蘇ってくる。
私はローヒールを脱いで、裸足で砂浜を歩く。波打ち際まで後少し⋯。
そんな時、砂浜に一冊の本が置かれていた。今にも波に攫われそうな私みたいに。私は、思い留まる。
本の砂を手で払って、白く乾いた流木に座り、ページを開いた。その小説のタイトルが『深海のカフェ冬銀河』だった。
小説に没入することで、不安は消えていた。視線を上げると、目の前にマジックアワーが広がっていた。色彩が魔法にかかったみたいにグラデーションになって。オレンジ色に染まっていた空が、藍色を模した色へ滲んでゆく。
私はこの小説に運命を感じて、自分の部屋へ持ち帰ったのだ。
それから、何度も何度も読み返して、何度も何度も救われた。
夜が長くて部屋の空気がどんなに重くなっても、朝を迎えることができた。カーテンを開けて、朝陽を浴びて。出社することができた。
理不尽なことに遭遇しても、作り笑顔には見えない笑顔でなんとか乗り越えた。これでも私は、必ず約束を守る人。ある程度の信頼を得ているのだ。
でも、私はこれからも間違いなく揺れる。不安の輪郭がはっきりと浮かび上がってしまっているからこそ、ぼんやりとした不安に揺れ続ける。
小説は私の心が最も安全に避難できる場所。私の居場所なのだ。小説の世界に没入することは、現実逃避ではない。だって、あなたに逢いたいから。小説の中でなら、何度でも、逢いたい人に逢える。行きたい場所に行けるから。