深海のカフェ冬銀河〜破滅ではなくマスターに堕ちてゆく〜
「こちらへどうぞ」
マスターに促されて、テーブル席へ。私は、ダークグリーンのソファーに身を委ねた。
「メニューは、コーヒーとモンブランしかございませんが、よろしいですか?」
「すみません。私、コーヒー、苦手なんです。苦いから」
私が恐縮気味にそう言うと、マスターの口角が、ふっと、上がって。大人の余裕を感じさせる。
「無理にとは言いませんが、一口でもいいので、僕の淹れたコーヒーを飲んでみませんか?せっかくここへ来たのですから」
「そうですね。わかりました。コーヒーとモンブランをください」
「かしこまりました」
カウンターの奥。コーヒーは、サイフォン式だ。映画で見たことがあるサイフォン式。あの映画を観たのは何年前のことだろう。映画が好きだったことを思い出した。でも、映画の世界は、エンドロールと共に幕を下ろしてしまうから、ちょっと寂しい。