初恋、のちパパになる―憧れのあなたは母になっていた―
 玲は気を取り直して言った。
「あの、それで折り入ってお願いしたいことがありまして」
「いいわよ、何でも聞いちゃう」

「僕たちの結婚式、ここでしてもいいですか?」

「キャー!!」
「ジェームズ、アンタちょっとうるさいわ」
「あーらあ、ごめんなさいねえ。だって、こんな嬉しいことないじゃない」
「アタシだってそう思ってるわ。こんな嬉しいことはない。もちろんOKよ。ただ、前例がないのよね。希望日を貸し切りにするか、普段の営業中にサプライズでやるか。どんな演出がいいかしら?」
 いつになく張り切るロゼとジェームズ。

「会費制のパーティー形式にして、規模は親しい友人や家族中心で考えています」
「あら、それはいい方法ね。遙花ちゃん、衣装はもう決めてるの?」
「いえ、まだこれから探すところです」
「僕が作っても良いんだけどね」
「いや、それだけは全力で阻止するわ」
「何で?」
「玲君の裁縫スキル、バグりすぎてるし」
「え、ひどくない?」
「事実じゃん。武器にはなるけど」
「武器って……」
 玲は肩を落とす。

「実際に、律君のお父さんの元カノを名乗って突撃してきた、ストーカーおばさんを撃退したらしいじゃない」
 玲の逸話は、いつの間にか遙花にまで伝わっていた。
「あ、あれはたまたま……そのおばさんの好みじゃなかっただけだよ。でも、結局亞紗斗(あさと)さんが引き取ってくれたから。亞紗斗さんの好みには合ってたのかなと思って」

 律の父である亞紗斗は、音大二回生の時に一か月だけ付き合ったという元カノから、二十年ほどつきまとわれていた。かなりしつこい相手で、当時十歳だった律にも「私が本当のママよ」と迫ってきたところ、律と玲、玲の姉の瑠花の三人で撃退したことがあった。とどめになったのが、玲の作ったまち針だらけのつぎはぎワンピースだった。

「いや、好み以前の問題だよ。私も見せてもらったけどさ、最早……あれは“最終兵器”だわ。未だに玄関先につるしてあるみたいだし。魔除けのジンクスって、瑠花ちゃんが言ってたわ」
「姉ちゃんめ……」
「でも、効果は絶大みたいよ。あれから家には来なくなったって」
「う……僕の夢が……」
「そんなに作りたいなら、裁縫スキル磨いてよ」
「無理」
「ギャハハハ! 玲君の裁縫展を開いたら、意外と面白いんじゃない?」
「ロゼさんまで」
 いつの間にか、結婚式の衣装の話は玲の裁縫スキルをめぐる笑い話に変わっていた。
 玲だけが不服そうに唇を尖らせる中、遙花が改めて口を開いた。
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