いつか終わってしまう初恋に、わたしはあなたを巻き込んだ

十八歳―②

朝起きると、目の前で男が眠っていた。

 窓から差し込んだ光が、長い睫毛の影を落とす。表情の抜け落ちたその顔が、まるで神様が特別に造り上げたかのようだった。

 これは、目覚めて一番に見ていいものではない。心臓に悪い。
 けれどわたしは魅入られたように、目が逸らせなかった。

 本当に生きているんだろうか。そう疑いたくなるぐらいに美しい。
 そっと手を伸ばす。すべらかな肌に、指先が触れる。

 ああ、ちゃんと体温がある。
 そう安心して、もう一度触れたところで、気が付いた。

「ラウル……!」

 頬を、額をなぞる。明らかに熱い。
 熱があるのだ。よく見れば呼吸も荒い。そもそも、ラウルはいつもわたしよりも随分先に起きている。余程具合が悪いのだ。

 思い当たることが、あった。

 仰向けに寝かせて、シャツのボタンを外す。正しい淑女はこんなこと決してしないだろう。けれどそんなことを言っていられない。

 傷を負った右肩。そっとそこに触れる。きれいに巻かれた包帯には膿のようなものが滲んでいて、明らかに熱を持っている。

「ばかじゃないの」

 全然大丈夫じゃない。この様子だとずっと痛みがあったはずだ。ラウルはそれを、周到に隠し通した。
 慌てて階段を下りる。背中で髪がふわふわと踊る。早朝の食堂では、女将一人が朝食の準備をしていた。

「あらあら。どうされました? まだお食事の準備ができてませんで」
「どうしよう」

 その穏やかな顔を見たら、膝から力が抜けていくようだった。女将の手が、わたしの髪を撫でる。結われていない、無造作なままのこの髪を。

「お兄さんに、何かありましたか」

 フードを被せてから、女将が尋ねた。

「ラウルが、死んでしまうかもしれないの。怪我をしてたのに、無理をしたの。わたしが、わたしのせいで……」

 一緒にいる人にもっと気を配らなければならなかった。あの人はわたしの不調を見逃したりはしないのに。
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