いつか終わってしまう初恋に、わたしはあなたを巻き込んだ
「この町に、お医者様はいらっしゃいますか? あの、どうしても、彼を診ていただきたくて」

 わたしがそう言うと、ぎゅっと包み込むように女将に両手を握られた。

 髪に触れる手。頬をなぞる手。背中に回された、彼の手。
 ラウルの手はこんな風にはやわらかくなかった。

「大切な、お人なのですね」

 嚙みしめるように、女将が言った。
 握りしめた手に、ぽたりと、何かが落ちてきた。それは留まることを知らずに、溢れてくる。

 ああそうだ。こんなになるまで、気が付けなかったけれど。
 ラウルは、やさしくて、正しくて、あたたかい。

 わたしはその大切な人の人生を奪ってしまうかもしれない。それが何よりも恐ろしい。

「はい」

 わたしは手の甲で涙を拭った。喉が焼けるように、熱い。

「広場の近くの通りに、医者がおります。頼めば往診もしてくれるでしょう。ただ……」

 女将はその先を言いよどむ。言いたいことは分かる。どこの町でも薬は高価で、だから治療を受けられず死んでいく者がいる。

 王宮にいる時は、そんなこと、考えたこともなかったけれど。

 わたしのためにラウルが無駄遣いをしたから、路銀の残りはそんなに多くはないはずだ。手持ちで医者にかかれる保証はない。

 俯いたら、長い自分の髪が目に入った。それをそっと撫でる。
 ラウルがずっと梳いてくれていたこの金色の髪。

 ああ、そうか。
 あるじゃないか。お金を手に入れる方法。

「お医者様を呼んでいただけますか? お金はちゃんとあります」

 もう一度涙を拭ってから、わたしは言った。

「よろしいんですね?」
「ええ」

 わたしは王女だったから、追われる羽目になった。
 けれど、王女だったからこそ、まだ差し出せるものがある。

「あと鋏を、貸していただけますか?」

 わたしが微笑むと、女将はその目を見開いた。

 これからわたしが何をしようとしているか、彼女は全てを分かっているようだった。
 とても悲しそうだったけれど、女将はそれ以上何も言わずに頷いてくれた。
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