いつか終わってしまう初恋に、わたしはあなたを巻き込んだ
「ひめ……さ」

 目の前のこの人をなんて呼べばいいのか、もう分からなかった。

 食堂のざわめきが静まっていって、自分たちに視線が集まっていく。
 けれど皆が怪訝に思っているのは、彼女の金髪ではない。裸足で宿屋の食堂にやってきた不審な俺の方だ。

 ぺこりと、彼女は頭を下げた。「お騒がせしてすみません」

「らう……兄様。二階に戻りましょう」

 背中を押されて、階段を上らされる。支えるように腰に手が回された。

 部屋の扉が閉まってから、腰にある小さな手を掴んだ。
 そのまま抱き上げて寝台に運ぶ。右肩が軋んだようになる。

「ラウル、やめて、傷がっ」

 抗議のように上がる小さな悲鳴を、俺は聞こえなかったことにした。

 寝台の縁に座らせて、ブラウスの襟元に手をかける。確かめるようにくつろげても、そこにネックレスはない。ただ白い首筋だけが浮かび上がる。

「フェリシエンヌ殿下」

 俺は彼女の前に膝を突き、目線を合わせた。
 決してはぐらかすことなど、できないように。

「一体何を、したんですか」

 ここまでの行いを不敬だと咎めてもよかったのに、そうはしなかった。

「何って言われても……もう、全部見たでしょう?」

 彼女は、右手でぎゅっと左腕を抱き寄せるようにする。

「刺客の一人を呼び出して、取引をしたの。王女は死んだと言って、証拠に髪とネックレスを渡したの。代わりにお金をもらった」

「その場で王女本人だとバレたら、どうするつもりだったんですか!」

 危なっかしいにもほどがある。一人でそんなところにのこのこ乗り込むだなんて。

「あなたの外套も渡したから。返り血だと言ったら、なんとなく乗り切れたわ。そもそも、こんな短い髪の王女殿下なんて、いないわよ」

 するりと、彼女は指先で髪をさらう。ぴょん、と跳ねたようになって金の粉が舞ったようにきらめいた。

「仮に王妃が信じなくても、ネックレスは売れば金になると言えば引き下がったわ。あれは、いいものだもの」

 なるほど、筋は通っている。この時期でも、首そのものを王都まで運ぶのは危険すぎる。
 その点、髪は証としては十分だ。

 けれど、だからこそ、腹が立つ。
 すっと青い瞳がそっぽを向いた。

「もういいじゃない。王女殿下の一人や二人ぐらい、いなくなったって」
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