いつか終わってしまう初恋に、わたしはあなたを巻き込んだ
 それより先を、言わせてもらえなかった。

「……っ」

 唇で唇を塞がれた。あたたかなそれが繰り返し触れる。
 まるでわたしを、呼び戻そうとするかのように。その感触に覚えがある。

 命そのものを吹き込まれるような、それ。
 あの、冷たい水の底を思い出す。

 ああ、そうだ。泡(あぶく)のように消えていく世界で、わたしはこうやって、この人に生かされた。

 大きな手が頭の後ろに当てられる。それは逃さないとばかりに、押し付けてくる。この手が、この腕が、わたしを掬い上げてくれた。

「生きていて。俺のために生きていて」

 とん、と額が合わさった。すぐそこに、真っすぐな光を湛えた黒い瞳がある。

「俺はただ、あなたに、明日を望んでほしい。それさえくれるなら、もう、何もいらないから」

 ラウルが求めたのはたった一つ、そんなことだった。
 ずっと欲しかった生きる意味を、この男は与えてくれるという。

 わたしはゆっくりと、息を吸った。

「いいの」

 何も返せなくとも、与えられなくても、わたしはここにいていいのだろうか。

「いいに決まってる」

 苦しいぐらいに抱き寄せられる。この力はそのまま、彼の想いそのものだ。

「だめだと言うやつがいたら、俺が全部斬り捨てるから。だから」

 ラウルはずっと、そうしてきてくれた。
 わたしを守り、わたしを慈しみ、わたしを、愛してくれた。

「ねえ、ラウル」

 わたしは、欲しがっても、いいのだろうか。

「あなたの全部を、わたしにくれる?」

 男はただ静かに微笑んだ。少しだけ呆れたように、少しだけ拗ねたように。

「何を今更」

 恭しい仕草で、ラウルはわたしの手の甲に口づけを落とす。

「喜んで」

 清々しい顔に浮かぶのは、恍惚にも似た表情。
 なぜだろう。わたしはこれを、見たことがある気がした。

「俺の全てはずっと、あなたのものですよ」
「そう」

 涙の跡が残る頬を両手で包み込む。だったらわたしももう、迷わない。
 いつだって、その目にはわたしだけが映っている。

「返さないわよ」

 口づけに口づけを返したら、男が震えた。その腕に抱かれて、わたしはゆっくりと目を閉じる。
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