いつか終わってしまう初恋に、わたしはあなたを巻き込んだ

十九歳

「こんにちは」

 声をかけられて青年は振り返った。会えればいいなと思っていた。今日はいい日だ。

 最近店を懇意にしてくれている宿屋の娘だ。女将の遠縁か何かで、手伝いをしている。

「今日は、何かいいものがあるかしら」

 彼女が微笑めば、肩口までの髪が揺れる。王族や貴族の娘は、腰まで髪を伸ばすらしいが、町娘だとそうはいかない。それでも、この長さは少し短い。ただ、とてもよく似合っている。

 近頃じゃ彼女を目当てに宿に泊まる客も多いという。

「ちょうど、りんごが入ったんだ。買って行くかい?」

「まあ、嬉しい。いただくわ。兄様の好物だもの」

 ただ、この“兄”というのが曲者なのだ。

 それはそれは、目の覚めるような美男らしい。彼に淡い思いを抱いている町の女も多くいる。

 長身の男は、主に裏で力仕事をしているようなのだが、旅の者が少しでも彼女にちょっかいでもかけようとしたら、いつの間にか控えるようにして立っているという噂だ。

 咎めるということもない。割って入るということもない。けれど、あの黒い瞳で一睨みされると、身も凍るようだと、旅人の一人が言っているのを聞いた。

 自分はまだその兄を見たことはないが、こんなかわいい妹がいたら気が気でないだろうなとは思う。

「そういや、王女様の帰天の儀が行われたらしいね」

 青年はふと、空を見上げて言った。ついこの間まで町中にあった黒いリボンが消えている。
 昨年、フェリシエンヌ王女殿下は亡くなった。突然の病だったという。

「そうね」

 娘も顔を上げる。その目は、見上げる空と同じ色をしている。

「まだたった十八歳だったのにな。かわいそうに」

 ここから遠い王都で、葬儀は行われた。市民はもちろん、高貴なその亡骸を目にすることはなかった。ただ棺の上には、王女の金髪と前王妃の形見であるネックレスが供えられていたという。

 会ったこともない王女様だけれど、きっときれいな人だったのだろうなと思う。

 一年の弔いを経て、その美しい髪は燃やされた。そして、その魂は天に還ったのだという。形見のネックレスを父王はとても大切にし、悼んでいるという話だ。

「そうかしら」
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