いつか終わってしまう初恋に、わたしはあなたを巻き込んだ
 手綱を引いたまま、ラウルはわたしを軽々と鞍に乗せる。それから自分はわたしの後ろに飛び乗った。

 わたしは彼ほど早駆けはできないから仕方がないのだけれど、こんな風にされるとどうしても体が密着する。

「大丈夫ですか?」

 二人きりになると、急に口調が敬語に戻る。さっきまであんなに兄ぶっていたのが嘘みたい。

「ええ」
「少し飛ばしますので。ご容赦を」

 急がなければいけない原因は全部わたしにある。謝る必要なんてないのに。

 確かな胸板にこつんと頭が当たる。この身はラウルの腕の中にすっぽりと収まってしまう。どうしたって自分の小ささを自覚させられる。

 七歳の時、わたしはこの世界の全てを手に入れたつもりでいた。
 けれど、それは八歳にして簡単に打ち砕かれた。

 父様が、二人目の王妃を迎えたのだ。それは多分、母様がわたしを産んだ後から病がちだったことと無関係ではないと思う。

 そうして、彼女は王子を一人産んだ。わたしの腹違いの、弟。なお、我が国は長子相続だ。

 二人目の王妃――アデール様は強いお人だった。己の野心も願望も、少しも隠すことはなく、諦めることもなかった。

 簡単なことだ。姉がいる限り、我が子が王にはなれないのなら、それを亡き者にすればいい。

 ある日わたしは、自分の周りから少しずつ色々なものがなくなりはじめていることに気が付いた。

 食事に毒のようなものが入り始めたのも、その頃からだ。
 多分、故意と殺意の間ぐらいの量をいつも盛られるのだ。だから、死ねなかった。

 その度に、アデール様は言う。

『なんてかわいそうに』

 それは、誰に向けられた言葉なのか。生き残ってしまったわたしに向けてなのか、二番目の子に生まれてしまった己の子に対してなのか。

 父様はアデール様の言いなりで、娘を守ってくれることはなかった。十歳の時に母様は死んでしまって、それっきりだ。

 十八歳の成人を機に、大国の婚約者はあっけなくわたしを捨てた。迎えるはずだった王子は、弟に嫁ぐ姫に変わっていた。

 相手なんて、誰でもよかったのだ。
 かの国が求めたのは、わたしではない。王位に就く者だった。

 お付きの人が目に見えて減っていく日々の中で、それでもラウルはわたしのそばを離れようとはしなかった。『そんなに言うなら明日からは下僕よ』と言ってもついてきたので、それから彼はわたしの下僕ということになっている。

 この身を包む男の体温を感じながら、考えた。

 ぬいぐるみも、金剛石も、婚約者も、全部なくなった。
 父様も、母様も、もういないのに。
 どうしてだか、この人だけがそばにいる。

 それはわたしが願ってしまったからだ。そうやって手に入れた彼の人生を、わたしは手放せないままだ。
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