いつか終わってしまう初恋に、わたしはあなたを巻き込んだ
 タオルを被って階段を上る。ほかほかとした気分のまま扉を開ける。

「ラウル、ただい、っきゃ」

 広い背中が惜しげもなく晒されていて、わたしは思わず目を覆った。

「ひ、ひめさま!?」

 ラウルの声が珍しく裏返る。

 びっくりした。まだ手当ての途中だったのか。
 これでは本当に破廉恥な女じゃないか。覆った指の隙間からわずかに肩口に見える包帯に、ちゃんと手当てをしていたんだとは分かって安心する。

「み、見てない! 何も見ていないから。外にいるから、終わったら声を掛けて」

 そのままくるりと向き直る。乱暴に外に出て、わたしは息を吐いた。

 言った通りだ。ほとんど見ていない。それでも、盛り上がった肩甲骨の辺りやしなやかな筋肉が、目に焼き付いたように離れない。

 わたしは彼に守られているのだ。

 しばらくしてから、扉が内側から開いた。

「すみません、お待たせしました」

 当然ながら、ラウルはちゃんとシャツを着ている。それでも、いくらか気まずそうに目を逸らす。

「もう、大丈夫なの?」

 思っていたより時間がかかっていた。ということは、もしかして深い傷なのではないだろうか。

 覗き見た背中をもう一度思い出そうとして、どうしていいか分からなくなった。
 伸ばした手は宙ぶらりんのままになる。

「ええ、ご心配には及びません」

 ラウルは押し留めるように、左手でわたしの手を取った。

「それより髪を乾かしませんと。濡れたままでは冷えます」

 わたしは空いている方の手でタオルを掴んで後ずさった。

「それくらい、自分でできるから」
「以前そう仰った時は、それはそれはもう、ひどい有様でしたが」

 きゅっと手を引かれれば、それ以上はもう下がれなくなる。

 大きくて硬い手。
 それは、湯であたたまったこの手と同じぐらい、あたたかい。

「……分かったわよ」

 仕方なく言われるがままにわたしは椅子に座らされて、甲斐甲斐しくまたラウルに髪を乾かされることになった。
 だからそれ以上、彼の傷のことを尋ねることはできなかった。
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