いつか終わってしまう初恋に、わたしはあなたを巻き込んだ
「少しだけ、この町に留まろうかと」
 翌朝、わたしの髪を梳きながらラウルがそう言った。

「どうして?」

 今まで町への滞在は最低限だった。追手がいつ来るかも分からないのだ。すぐに次に向かった方がいい。

「広場の人相書きは白黒でした。辺境まではまだ、手が回っていないのだと思います。なら、下手に動き回るよりじっとしていた方が賢明かと」

 ゆるやかに髪は結ばれていく。背中の向こうにいるから、ラウルがどんな顔をしているのか見えない。

「補充したい物資もありますし、姫様も慣れない暮らしは大変でしょう。この辺りで少し休まれた方がいい」

 今日の髪型は、比較的簡単な編み下ろし。最近の凝った髪型からすると、少し趣向が違う。これもラウルの好みだろうか。

 紐が結ばれ終わったところで、振り返ってラウルの顔を見上げる。

「ねえ、傷は」
「血はもう止まっています。問題ありません」

 いつもと変わらぬ怜悧な相貌。こんなに近くにいるのに、何を考えているのかちっともわからない。

 けれど、どんなことがあっても、ラウルは痛くてつらいから休みたい、とは言わないだろう。

「そうね。休ませてもらおうかしら」
「はい」

 ただわたしが休むのなら、彼はそれに付き合わざるを得ない。そう思って、ここに留まることを決めた。

 時折、女将が気を遣ってくれる。
 夕食の後、旅の人からもらったりんごを分けてくれたりするのだ。

 そのさりげなさがありがたかった。おかげで、わたしは少しだけ息苦しさから解放された日々を過ごした。
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