いつか終わってしまう初恋に、わたしはあなたを巻き込んだ
 北に来た分は冬が訪れるのが早い。王都を逃げ出したあの日から、少しずつ季節が進んでいることを実感する。

 寝台に入っても、足先が冷えて眠れない。ラウルはわざわざ女将に頼んで暖炉で石を温めてもらった。

 それを布袋に入れて抱えて寝たのだけれど、もう冷えてしまった。冷たいだけの石を持っていると、余計に冷える。

 枕の下に手を入れる。隠すように置いてあるのは、母様のネックレスだ。
 風呂と眠る時以外はずっと身に着けている。

 金細工の精緻な模様に、母が輿入れの時に持ち込んだ多くの宝石があしらわれている。

 形見としてもらい受けたから、アデール様もこれを奪えはしなかった。
 わたしもこれをお金に変えようとは思えなかった。
 結果として手元に残る、わたしが王女だったことの唯一の証のようなものだ。

 月明かりが青い宝石に落ちて、シーツの上に虹色のきらめきを落とす。粗末な町の宿屋には似つかわしくない代物だ。わたしはまたそれを枕の下に戻した。

 そっと起き上がると、扉の横で座り込んでいた彼が顔を上げた。

「どうか、しましたか」

 起こさないようにしたつもりだったのに。

 逃亡生活の最初の頃、夜に襲撃を受けたことがあった。それを警戒しているのか、ラウルはいつも扉のそばで眠る。わたし一人を寝台に寝かせて。

「その、寒くて」

 ラウルは壁に手をついて立ち上がったかと思うと、ためらいがちにわたしの指先に触れた。端整な顔立ちが一瞬で翳って、彼は布袋を掴む。

「もう一度、女将に頼んできます」
「だめよ。もう寝ている時間よ」

 慌てて、わたしはラウルの手をぎゅっと握った。

 とっくに暖炉の火も落としているだろう。いくら懇意にしてくれているとはいえ、こんな時間に起こすのは忍びない。

「ですが」

 黒い瞳はいくらか彷徨って、それから自分が包まっていた毛布に目を向けた。
 だめだ。あれまでもらってしまったら、この人が本当に風邪をひいてしまう。

「あのね」

 そうだ、簡単なことだ。わたしは両手で、大きな手を握り直す。凍えたような手に、男の体温が染みていく。

「ひめさま?」

 切れ長の目がまん丸になった。けれど、手が振り払われることはない。端に寄ってから、とんとん、と寝台を示すように叩く。

「兄は妹が凍えていたら、眠るまで一緒にいてくれるのではないかしら」

「ばかを言わないでください。ご自分が仰っていることの意味が、ちゃんと分かっていますか?」

 分かっている。ちゃんと分かっている。
 そもそもわたし一人が寝台にいることがおかしいのだ。
 この人だって、鉄でできているわけではないのだ。ずっと床で眠るのは堪えるだろうに。

「毛布を持ってきて。あなたもここで寝るのよ」
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