傷心な私と幼なじみ御曹司の契約結婚~不眠治療のハズが、20年分の執着愛で甘やかされています~
「あ、でもオシャレなフランス料理とかは無理だけど……って、ダメか。ごめん、忘れて」
 普段美味しいものばかり食べている創が、自分なんかの庶民料理を食べるはずがなかった。
 馬鹿なことを言ったと莉緒は慌てる。
 
「食べたい」
「えっ?」
「ここの1階のスーパーで買えば作れるのか?」
「作れると思うけど」
 創の嬉しそうな顔に、莉緒は目を丸くした。
 
「奥様、調味料もありませんので、一式お願いいたします」
 炊飯器や鍋はシェフが使うため置いてあるが、米や食材はなく、調味料もシェフが毎回持参するので部屋には置いていないと藤森は教えてくれる。
 
「では私はこれで」
 藤森が空気を読んでさっと退散すると、創は莉緒の手首をそっと掴んだ。
 地下駐車場からエレベーターで1階へ向かうと、スーパーの入り口と、駅の改札口に向かう通路が見えた。
 駅直結のこの建物は、雨でも濡れずに帰ってこられそうだ。

「創くんがカート押すの、なんか変な感じ……」
「そうか?」
 雑誌に載るイケメン副社長が、買い物カートって似合わなさすぎでしょ。
 
「創くん、昔、ハンバーグが好きだったよね? 和風の、大根おろしが乗ったやつ」
「……覚えているのか」
「当たり前だよ。幼馴染だもん」
 子どもの時、莉緒は大根おろしの辛味が苦手だった。
 それなのに、創が大根おろしが乗ったハンバーグを食べているのは衝撃だったのだ。
 もちろん今は食べられるけれど。
 あの時は、創がすごく大人に見えたことをよく覚えている。
 
「えっと、玉ねぎでしょ。卵とひき肉と……」
 さすが駅前のスーパー。
 全体的にちょっとお高めかもしれない。

「米はこれでいいか?」
「魚沼産! それ、高いよ!」
「うまいだろ?」
「おいしいけど……」
 量は少ないけれどビックリするお値段の米をカゴに入れた創は「あとは?」と莉緒の方を振り返る。
 調味料とデザートまでしっかり買い込みすぎて、どうやって部屋まで持って帰ろうかと悩んだ莉緒は、VIPの恐ろしさを知った。

< 11 / 14 >

この作品をシェア

pagetop