傷心な私と幼なじみ御曹司の契約結婚~不眠治療のハズが、20年分の執着愛で甘やかされています~
 そのまま連れて来られたのは、表参道の一角に構える高級セレクトショップだった。
 店に入った瞬間、貸し切り状態の店内と並ぶスタッフ一同に深々と頭を下げられ、莉緒はパニックに陥る。
 
「桐生様、お待ちしておりました。ご要望のサイズとお好みのラインをご用意しております」
「とりあえず全部買うか」
「多すぎるってば!」
 全部って何着あると思っているの!?
 そんなに着られるわけないよ。

 文句を言いながらも、店員さんに手渡されたペールブルーの繊細なレースのブラウスと女性らしいフレアスカートに着替える。
 測っていないのに、どうしてサイズがぴったりなのかな。
 なんでこんなに着心地がよくて、ペールブルーなのに膨張して見えないのかな。
 自分が可愛いと思って衝動買いした服って、だいたい失敗するのに。
 
「……どうかな。派手すぎない?」
 試着室から出た莉緒を見た瞬間、ソファーに深く腰掛けていた創の手がぴたりと止まった。

「創くん?」
「……ダメだな」
「えっ、変?」
 やっぱりこんな可愛い色、アラサーには無理!?

「俺以外の男に見せるのが惜しい」
「なに言ってるの……!」
 立ち上がった創が莉緒の腰を引き寄せる。
 ドラマでしか聞かないような強烈な言葉に、莉緒の顔はトマトのように真っ赤に染まった。

「着心地はどうだ?」
「すごく柔らかくて、さらさらでステキだと思う。靴も履き心地がよくて」
 私好みでヒールは高すぎず、低すぎず。安定感があって、長時間立っていても疲れにくそうな中敷きもうれしい。
 このブラウスも見た目はひらひらしているのに、袖はぎゅっと絞ってあって仕事の邪魔になりにくそうだし、少しコンプレックスな『いかり肩』が目立たないようなデザイン。
 フレアースカートも濃い色のおかげか、足が長く見える気がする。

「あの緑の服はハネてくれ。あとサンダルの……あぁ、それだ。それも不要だ。残り全部届けてくれ」
「ぜ、全部!?」
 驚愕する莉緒を余所に、創は涼しい顔で店長にブラックカードを差し出した。

「ま、待って! そんなの多すぎるって!」
「あの中から10着選べって莉緒に言ったら、決められなくて1着になるだろ?」
 性格がバレすぎてる!

「あの緑は小学校の倉庫の色だから好きじゃない。ビーチサンダルが嫌いだから親指の横に紐があるタイプのサンダルは好きじゃない。……あっているか?」
「そ、そう、だけど……」
 なんでそんなことまでバレているの!?
 小学校の倉庫の色が嫌いって、いつ言ったっけ?
 ビーチサンダルが嫌いなことも、なんで覚えているの? 幼稚園の頃の話でしょ。
 もしかして創くんって、とんでもなく記憶力がいいのだろうか?
 昔から頭は良かったけど。

「次は『妻』の証を買いに行くぞ」
「証って?」
 首を傾げた莉緒の手を、創は力強く引き寄せる。
 
「指輪だ」
 創は莉緒の耳元に顔を寄せると、甘く低い声で囁いた。
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