世界で一番切ない恋
ーー十一ヶ月後の約束ーー
授業が終わりのチャイムを告げると同時に、私は逃げるようにノートを閉じた。結局、黒板の文字は最後まで掠れたままで、私のノートには、震える手で書き殴った意味のない線だけが残った。
「ねえ、みーちゃん。今日放課後、ちょっと中庭付き合ってくれない?」
詩織が机を寄せてきて、秘密基地の作戦会議でもするみたいに、楽しそうに声を潜めた。
「中庭? いいけど……どうしたの?」
「あのね、実は……私、好きな人ができたの」
詩織の頬が、お日様みたいな綺麗なピンク色に染まっていく。いつも大人びていて気遣いのできる彼女が、今は恋をする一人の女の子の顔をして、恥ずかしそうに身をよじらせていた。
「まだ全然喋ったこともないんだけどさ。……だから私、決めたんだ。来年のバレンタインに、絶対に手作りのチョコを渡して、告白するの!」
来年の、バレンタイン。
詩織は、十ヶ月も、十一ヶ月も先の未来の約束を、眩しいくらいに信じて疑っていない。
「だからさ、みーちゃん。チョコ作るときは絶対に手伝ってね? 私、不器用だからさ。告白のときも、遠くから見守っててほしいな」
「……うん。もちろん、応援するよ」
引きつりそうになる唇を必死に動かして、私は笑顔を作った。
胸の奥が、冷たい氷を押し付けられたみたいに激しく痛む。
(……見られないんだ)
お医者さんは言った。私の目は、あと十一ヶ月ほどで完全に失明する、と。
来年のバレンタインが来る頃、私の世界はもう、完全な暗闇に包まれている。
詩織が一生懸命作ったチョコの形も。
恋をして、世界で一番可愛くなっているはずの、詩織のその顔も。
告白が上手くいって、幸せそうに笑う彼女の姿も。
私はもう、この目で見てあげることができない。最後まで隣で、ちゃんと応援してあげることすら叶わないんだ。
「あはは、みーちゃんが応援してくれたら百人力だなー! 頑張らなきゃ!」
私の心の内の絶望なんて何も知らない詩織は、嬉しそうに私の腕をギュッと抱きしめた。
腕を通じて伝わってくる詩織の体温が、温かければ温かいほど、私は自分の「陰」の冷たさを突きつけられているようで、泣き出しそうなのを堪えるのに必死になった。
ごめんね。詩織。
「ねえ、みーちゃん。今日放課後、ちょっと中庭付き合ってくれない?」
詩織が机を寄せてきて、秘密基地の作戦会議でもするみたいに、楽しそうに声を潜めた。
「中庭? いいけど……どうしたの?」
「あのね、実は……私、好きな人ができたの」
詩織の頬が、お日様みたいな綺麗なピンク色に染まっていく。いつも大人びていて気遣いのできる彼女が、今は恋をする一人の女の子の顔をして、恥ずかしそうに身をよじらせていた。
「まだ全然喋ったこともないんだけどさ。……だから私、決めたんだ。来年のバレンタインに、絶対に手作りのチョコを渡して、告白するの!」
来年の、バレンタイン。
詩織は、十ヶ月も、十一ヶ月も先の未来の約束を、眩しいくらいに信じて疑っていない。
「だからさ、みーちゃん。チョコ作るときは絶対に手伝ってね? 私、不器用だからさ。告白のときも、遠くから見守っててほしいな」
「……うん。もちろん、応援するよ」
引きつりそうになる唇を必死に動かして、私は笑顔を作った。
胸の奥が、冷たい氷を押し付けられたみたいに激しく痛む。
(……見られないんだ)
お医者さんは言った。私の目は、あと十一ヶ月ほどで完全に失明する、と。
来年のバレンタインが来る頃、私の世界はもう、完全な暗闇に包まれている。
詩織が一生懸命作ったチョコの形も。
恋をして、世界で一番可愛くなっているはずの、詩織のその顔も。
告白が上手くいって、幸せそうに笑う彼女の姿も。
私はもう、この目で見てあげることができない。最後まで隣で、ちゃんと応援してあげることすら叶わないんだ。
「あはは、みーちゃんが応援してくれたら百人力だなー! 頑張らなきゃ!」
私の心の内の絶望なんて何も知らない詩織は、嬉しそうに私の腕をギュッと抱きしめた。
腕を通じて伝わってくる詩織の体温が、温かければ温かいほど、私は自分の「陰」の冷たさを突きつけられているようで、泣き出しそうなのを堪えるのに必死になった。
ごめんね。詩織。