世界で一番切ない恋
どうやって家に帰ってきたのか、やっぱり記憶になかった。
気がついたときには、私は電気も点けていない真っ暗な自分の部屋のベッドの上で、膝を抱えて丸まっていた。
一階からは、かすかにテレビの音が聞こえてくる。
お母さんが、昨夜の険悪な空気を気にして、わざと普通の日常を演じようとしているのが分かって、胸が余計に苦しくなった。
お母さんは、私の目が十一ヶ月で治らなくなることに絶望して、あんなに狂ったように泣いていた。
じゃあ、星野くんの家族は?
星野くん自身は?
あと半年で、自分の命が消えてしまうと知ったとき、彼は一体どんな風にその絶望を飲み込んだのだろう。
「……っ、う、うう……」
私は、カバンから取り出したあの三つ折りの診断書を、胸の前に強く抱きしめた。
薄い紙のはずなのに、まるで冷たい鉄の塊みたいに重くて、私の呼吸を苦しくさせる。
どうしたらいいの。
この秘密を、私はどうすればいいの?
(明日、学校で星野くんに会ったら、なんて言えばいい……?)
『これ、落ちてたよ』って、何事もなかったみたいに笑顔で返す?
そんな器用なこと、今の私にできるわけがない。彼の顔を見た瞬間、絶対に涙が溢れてしまう。
じゃあ、正直に『見ちゃった』って謝る?
『あと半年ってどういうこと?』って、彼を問い詰める?
……そんなの、絶対にダメだ。
星野くんは、
誰にも言わずにこの秘密をカバンの奥に隠していたんだ。
学校ではいつも流星群の真ん中で眩しく笑って、
私の前では少し意地悪に『お前の目になってやる』なんて言って。
自分が一番怖いはずなのに、私を安心させるために、彼は必死に『強い一番星』のふりをしていたんだ。
それを、私が「見ちゃった」なんて言ったら、彼のあの眩しい強がりを、プライドを、私が全部めちゃくちゃに壊してしまうことになる。
『お前の世界が真っ暗になっても、俺が絶対にお前の道標になるから』
あの渡り廊下での彼の優しい声が、頭の中で何度も、何度もリフレインする。
あんな風に笑って私を救ってくれた星野くんに、私はこれ以上、どんな顔をして優しくされればいいの。私に関わっている暇があるなら、自分のためにその命を使ってよ、と叫びだしたかった。
「星野くん……バカだよ、本当にバカだよ……っ」
枕に顔を押し当てて、声にならない声を漏らす。
だけど、彼が抱えている暗闇の深さを知ってしまった今、私の心は、どうしようもないくらい星野くんで溢れかえっていた。
窓の外を見上げても、今夜の雨雲は厚くて、一番星の光なんてどこにも届かない。
私は夜の底で、ただ一人、彼の命の砂時計が刻む残酷な音を聴きながら、朝が来るのを激しく恐れていた。
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