世界で一番切ない恋
「星野くん……!? 嘘でしょ、目を開けてよ!!」
必死に彼の身体を揺さぶるけれど、返事はない。お祭りの賑やかなお囃子の音のなか、彼の呼吸は今にも消えそうなほど浅く、その顔は夜の闇よりも白く、冷たくなっていた。
「誰か……誰か救急車を呼んでください!! お願いします、彼を助けて……っ!!」
私の叫び声で、周囲が騒然となる。
白黒に霞む私の視界のなかで、人混みがざわざわと歪み、遠くから近づいてくるサイレンの音が、耳の奥を激しく突き刺した。
「どいてください! 道をあけて!」
荒々しい足音とともに、救急隊員たちが私たちの元へと駆け込んでくる。
ストレッチャーが硬い地面を転がるガタガタという無機質な音が響き、星野くんの身体が、私の手の中からあっという間に引き剥がされていく。
「君、彼の関係者!? 一緒に乗って!」
隊員に肩を強く掴まれ、私は「はいっ……!」と掠れた声で叫んでいた。
大嫌いなはずの星野くんが、私の目の前で消えてしまう。その恐怖だけで、私はおぼつかない足元のまま、浴衣の裾を激しく踏み鳴らして救急車へと走り、後部座席にしがみつくようにして飛び乗った。
バタン、と重い扉が閉まった瞬間、世界からお祭りの喧騒が消え去り、異様なほどに冷たい静寂が車内を包み込んだ。
「星野蓮さん、17歳! 意識レベルJCSは30、呼吸浅表、心拍微弱です! 急いで!」
「モニター装着! 心電図、誘導早く!」
激しく揺れる車内のなか、救急隊員たちの鋭い怒号が飛び交う。
ピッ、ピッ、ピッ、と突如として鳴り響き始めたアラーム音が、狭い車内に異常な緊張感を張り詰めさせた。
「心拍数42、徐脈です! 血圧計測、80の40……急激に低下しています!」
「酸素投与開始! リザーバーマスク10リットル! ルート確保急いで、外液全開で落として!」
隊員たちの手がせわしなく動き、金属が擦れ合う音が耳元で狂ったように響く。
何かの機械が警告を発するように点滅する、赤や緑の光だけが、私の霞んだ網膜の裏でぐしゃぐしゃに混ざり合っていた。
星野くんの口元に、プラスチックのプラスチック製の酸素マスクが強く押し当てられ、シューという無機質なガスの音が響く。
彼の細い腕に太い針が突き刺され、何本もの細い管がその身体に這わされていく。私はその光景をまともに捉えられないぼやけた視界のまま、彼の左手を狂ったように両手でぎゅっと握りしめた。
熱かったはずの彼の手が、今は血の気が引いたように驚くほど冷たく、湿っている。
「心電図、波形変化! ST上昇、いや、完全に房室ブロックを起こしかけてます! 直近の受け入れ病院、心臓血管外科のある海眼総合病院にコンタクト急いで!」
胸骨を強く圧迫する隊員の手の振動が、繋いだ手を通じて、私の身体にまでダイレクトに伝わってくる。隊員たちが処置をするたび、彼の身体がまるで魂の抜けた人形のように力なく揺れた。
「星野くん……。目を開けてよ、嘘つき……。来年もまた見ようって言ったじゃん……っ」
ドクン……ドクン……と、車内のモニターが、彼の弱り切った心臓の限界を痛々しく響かせ始める。
そのテンポは、サイレンを鳴らして夜の街を疾走する救急車のスピードとは裏腹に、怖いくらいにゆっくりで、一拍ごとにその命がこぼれ落ちていくようだった。
「バッグバルブマスクに変えます、手動換気補助に入ります! 心停止、警戒して!」
激しく揺れる車内のなか、救急隊員たちの怒号のような声が行き交う。
何かの機械が点滅する、赤や緑の光だけが、私の霞んだ網膜の裏でぐしゃぐしゃに混ざり合っていた。
星野くんの口元に、プラスチックの酸素マスクが強く押し当てられる。
いろんな管に繋がれていく彼の左手を、私は狂ったように両手でぎゅっと握りしめた。
熱かったはずの彼の手が、今は驚くほど冷たい。
隊員たちが処置をするたび、彼の身体がまるで人形のように力なく揺れるのが、繋いだ手を通じてダイレクトに伝わってくる。
「嫌だよ、星野くん……。目を開けてよ、嘘つき……。来年もまた見ようって言ったじゃん……っ」
ドクン……ドクン……と、車内の機械が、彼の弱り切った心臓の鼓動を痛々しく響かせ始める。
そのテンポは、街を疾走する救急車のスピードとは裏腹に、怖いるらいにゆっくりで、今にも止まってしまいそうだった。
私は彼の手を両手で握りしめたまま、ただ一人、彼を完全に失う本当の恐怖に、声もなく涙を流し続けることしかできない。
< 20 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop