世界で一番切ない恋

ー星になった君へ

星野くんが逝ってしまってから数日後、彼の告別式が行われた。
その日は、まるで空も泣いているみたいに、冷たい冬の雨が静かに街を濡らしていた。
私の視界は、もういよいよ最期の時を迎えようとしていて、式場の外に飾られた大きな黒い看板の文字も、並べられた白い百合の花の形も、ほとんど何も捉えられない。ただ、お線香のツンとした香りと、静かに響くお経の音だけが、彼が本当にいなくなってしまった現実を冷たく突きつけてくる。
式場には、同じ学校の制服を着た生徒たちが、それこそあの中庭の流星群みたいに、たくさん集まっていた。
「星野、なんでだよ……っ」
「嘘だろ、早すぎるよ……」
あちこちから、クラスメイトたちの鼻をすする音や、堪えきれない泣き声が聞こえてくる。学校中の女子からモテて、男子からも慕われていた彼だ。みんなが彼の死を信じられなくて、激しく涙を流していた。
「みーちゃん…つらいけど、頑張ろうね。…星野くんっ…」
隣で私の腕をぎゅっと握りしめている詩織が、崩れ落ちそうなほどにボロボロに泣きじゃくっていた。いつもお日様みたいに明るい彼女の、聞いたこともないくらいに掠れた、悲痛な声。
そして、その詩織の肩を支えている一ノ瀬陸くんも、
「星野……お前、俺を置いてくなよ……っ」
と、親友の死に男泣きをして、肩を激しく震わせていた。
みんなが、彼の遺影に向かって声を上げて泣いている。
なのに、彼の『心不全症』の秘密を、その本当の『影』を、あの放課後の階段で誰よりも近くで共有していたはずの私は、なぜだか涙が一滴も出てこなかった。
泣いてしまったら。ここで私が声を上げて泣き崩れてしまったら。
「お前はそこで一番綺麗に輝く月なんだよ。だから、暗闇を怖がるな」と、最期に私の頬を包んで笑ってくれた彼のあの強い強がりを、私が嘘にしてしまう気がしたから。
私はただ、ポケットの中にある、彼から返してもらったあの三つ折りの診断書を、指先で痛いくらいに強く、強く握りしめていた。
お焼香のために、詩織に手を引かれてゆっくりと前へ進む。
ぼやける私の視線の先、たくさんの白い花に囲まれた祭壇の真ん中に、一枚の四角い写真が飾られているのが、かすかに見えた。
そこに映る星野くんは、いつもみたいに少しだけ意地悪そうで、でも、驚くほど真っ直ぐで眩しい、最高の笑顔を浮かべていた。
「っ…」
(……バイバイ、星野くん)
心の中で、誰にも聞こえない声で、そっと名前を呼ぶ。
みんなが泣き叫ぶこの冷たい式場のなかで、私の唇に残るあの最後のキスの熱だけは、どうしようもないくらい優しくて、温かくて、眩しくて。
私は遺影の彼からフイッと目をそらすようにして、ただ静かに、誰にもバレないように、奥歯を噛み締めてその場を立ち去るのが、精一杯だったんだ――。
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