青い空の下で
「私も見たのよ。鹿児島で・・・」

そういった山下さんの言葉が,
運転している私の脳裏に鮮やかによみがえった。

どこで見られているか分からない。
毎日が淡々と平凡に
過ぎていく人たちにとって,
非日常的なことは
格好の噂の種になってしまう。

それでも,
その先生は自分の想いを
抑えられなかったのだろう。
どうしようもない恋心を。

その気持ちは,私は理解できる。

もし
真人ともう一度
再会してしまったら,

私はきっとその先生と
同じように不倫であっても
この想いを抑えられない,

理性で抑えられるほど,
真人への想いは
もう自分の中で大きく
なりすぎているから。

真人に拒否されても,
きっと私はぶつかっていく。
まるで子どもの恋のように。

それでも,駄目だったら。
私はきっと生きていけない。
もう二度とこの手から
離したくない恋だから。

「子どもは旦那はどうするの?」

ふと,直子の声が聞こえた。

私は,
直子に男なんてと言いながら,
自分の心の中は真人で
いっぱいになっている矛盾に
どうしようもなく,
こんなに真人でいっぱいの
自分の心のうちを
直子に打ち明けたら,

「言ったじゃない。
 伊佐見さんが,
 倫子には一番合ってたのよ。
 馬鹿じゃない。
 自分の想いを無視して,
 親や家のために
 結婚相手を決めた罰よ。」

きっとそう言われるに決まっている。

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