青い空の下で
真人の声音に似ている尚登。

その尚登と
偶然に同じ高速船に乗り合わせた日に,
かかってきた真人の電話。

二人を
同じ土俵で比べることはできない,

それくらい
私の中では真人の存在は絶対であった。

それより,
あの少年はなぜ私に声をかけたのだろうか。

そういえば,
あの少年は何ももたずに店から出て行った。買い物にきたのではなかったのかしら。

「潤井さん!」

急に声をかけられた。
振り向くと,
娘と同じクラスの保護者の山下さんだった。

一瞬,
今の二人の様子を見られていたかもしれないという不安がよぎった。

何せ,彼女はこの島の情報網だ。
今の様子も,
明日にはあっという間に
知れてしまう可能性は
限りなく100%に近い。


「あ。山下さん,今買い物なの?」

「そうなのよ。
 そういえば知ってる? 
 ほら学校の神谷先生,
 単身赴任の先生と
 不倫関係になって,
 大騒ぎみたいよ・・・
 私も一度鹿児島でみたのよね・・・」

彼女の話を聞いていたら,
このままあっという間に
1時間でも経ってしまいそうだった。

私は適当に聞き流しながら,
どうにかこの場を逃れる手立てを考えていた。

「あと1分でタイムバーゲンです。」

 店内アナウンスが流れた。

「あ!!卵を買いに来たんだったわ。
 じゃあね,また」

彼女はそういうと,
並び始めた列の最後尾に並びに走っていった。

私は,ホッと胸をなでおろすと,
レジをすませ,車を海岸へ向かって走らせた。


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