青い空の下で
「あ。今笑いましたね・・・」
「ごめんなさい。あなたの身体に似つかわない犬なんだもの・・・」
私はなかなか可笑しさが止まらず,
しばらくクスクス笑い続けた。
「ひどいな・・・初対面の人のこと,そこまで笑いますか・・・」
「本当にごめんなさい。ちょっと止まらなくなって・・・久々だわ。こんなに笑うの。」
そういいながら,
私は溢れてきた涙を指でふき取った。
本当にこんなに笑ったことは,久々だった。もう笑うことは忘れていたと思っていたのに。
私は,続けて溢れてくる涙を抑えることができなくなった。
隣に一緒に歩いている男は,そんな私を見て,微笑んでいるようだった。
整備されている海岸沿いの公園のベンチに,並んで腰を下ろした。目の前まで,波が打ち付けてきている。はるか向こうには大隈半島がうっすらと姿を見せていた。
ようやく笑いから抜け出た私は,
鞄からペットボトルを出して,
水を一口飲んだ。
「ああ・・・しんどかった・・・おなかの皮が痛くなったわ。」
そういうと,
隣にすわっている男のことが,
とても気になっている自分に気づいた。
その男は,
私の手にしているペットボトルを取ると,
あっという間にそのまま口をつけて,水を飲んだ。
私はいきなりのことに声を出ずに,
その男の横顔を見つめるだけだった。
そして,その喉元がごくごくと動くのを眼にして,急に忘れていた感情が体の一番奥底からわきあがってきそうな感じがして
思わず視線をはずすと,空を見上げた。雲ひとつない空に,一本の飛行機雲が流れていた。