青い空の下で
第2話
その男は,水を一気に飲み干すと,
「ありがとう」と,
私に空になったペットボトルを突き出した。

私は,そのペットボトルを手に見つめたまま,
さっき私の胸の奥で
湧き上がった感情の高ぶりに
戸惑っていた。

「全部飲んでしまいました。申し訳ありません。」

男はそういうと,
急に立ち上がるとどこかへ歩いていった。


私は,なにかに,突き動かされるように,
その男の背中から眼を離すことが出来なくなった。

男が手に缶コーヒーを持って,
こちらに戻ってくるまで,
私の視線はその男に釘付けだった。


なぜだろうか。
自分の気持ちが分からなかった。
そんなにいい男だろうか。
よくわからない。

そんな言葉が,
私の中を駆け巡り,
私の心を揺さぶり荒立てた。


男は,そんな私に微笑みながら,
缶コーヒーを差し出すと,
横に腰掛けると,

「なにか,私の顔に何かついてますか?」

と,視線を海に向けながら,
静かな落ち着いた声音で聞いてきた。



ああ・・・この声・・・・
私がこの男のことが気になるのは,
この声にせいだわ・・・・



「いいえ,何も。」 

私は,男の横顔をみつめたまま答えた。

このままではいけない。
これ以上一緒にいたら,
きっとこの男のことを
知りたくなってしまう。

私は立ち上がると,
自由気ままに波と戯れていたモモのそばに行き,リードをつけると

男のところへ戻り,
「それじゃ」と言うと,
その場を離れた。

そんな私を追いかけるように,
「また会えたら・・・・」と
声が聞こえたような気がした。

しかし,私の耳にはすでにイヤホンがつけられて,ベートーベンのソナタが流れていた。


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