青い空の下で
それから,
私は意識して
あの男に会った散歩道にいかず,
反対の方角の道ばかり歩いた。


いまある平凡な毎日を,
ただ淡々と過ごしていたかった。

そうして
時を積み重ねて生きていきたい
と思っていた。

それが,どんなにつまらなくても,
妻として,母としての最小限の責任を
果たしていければ

それでいいと自分自身に言い聞かせて,
生活してきたこの日々を,
あえて自分から崩す必要なんてなかった。


「ねえ,聞いてるの?女としての自分をもう一度,掴みたくないの?」

高校からの腐れ縁の女友達の直子が
電話口で声を大にして言ってくる。


「聞いてるわよ。男なんて,もう十分じゃない。旦那で。男なんて,単なるわがままな自分勝手な生き物でしょ。どうせ,妻とお母さんの区別もつかないような甘えん坊よ。それなのに,まだ男が必要なの? いいのは最初だけよ。」

と私はパソコンの画面から
眼を離さずに答えた。


「だって,潤いがないじゃない。生活に潤いがないと生きていけないわよ。」

直子は,子どもが三人もいる。
いま育児休暇中で,
ちょくちょく電話がかかってくる。

大体が旦那の悪口と愚痴だが,
お互いに気心も知っているだけあって,あけっぴろげに話が出来る相手だ。



「潤いって,その他の誰かに優しく,甘えたいだけでしょう。そんな都合のいい男なんていないのよ。結局は,女の体目当てなんだから。そんな男がいたら,私も欲しいわよ。
やめときなさい。また泣かされるだけなんだから。」


「そんな実も蓋もないこと言わないでよ。だって,さびしいんだもん。旦那は仕事仕事で,子どもの面倒なんて絶対見てくれないし・・・・」

そう,
直子はもともとさびしがり屋なのだ。
だからふらふらと男に抱かれてしまい,
後から泣くのだ。

相手がいる相手と知っているくせに。

そんな彼女の姿をずっと見てきた私は,
そこだけが理解できないところの一つだ。

だけど,どうしてもほっとけなくて,
こうやってむちゃくちゃなことを言う
彼女のブレーキになっている。

しかし,そんなことを言いながら,
私は自分自身にブレーキをかけている,
そう思っている。


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