青い空の下で
第16話
真人のギターの心地よい調べがライブ会場に静かに響き渡り始め,
観客のざわめきがすこしずつ落ち着いてきた頃,

私は久々のステージの眩しさに戸惑い,
マイクを持つ手の震えがなかなか収まらなかった。
そんな時,真人の声が耳に聞こえてきた。

「今日は,こんなに集まってくれてありがとう。
そんなみんなに俺からの感謝の気持ちをこめて,
曲を贈ります。まずは『try to remember』。」
そういうと,真人のギターと渉のベースが音を奏で始めた。

私は,二人へ視線を送った。
10年前のステージに一瞬で戻った気がした。
今夜も最高のステージになるわ。
きっと一生忘れられないようなステージになるように,私は心からの歌を送った。


「それじゃ,二曲目です。
この曲は10年前,ここから誰にも告げずに黙って海外に旅立つ前に
最後にセッションをした音羽の曲をもとにアレンジし,歌詞をつけました。
この10年間にいろんなことがあって,手放したものと手に入れたものが
それぞれにあるはずです。人生の中で一番大切なものを思い出して聴いてください。」

真人の会場に話しかける姿を,私は視線を外さずに見つめていた。
この詩を私に歌うように送ってきたということは・・・・どういうことなの。
私は喉元まで何度も湧き上がってきた言葉を発することも出来ずに,
このステージの上にいる。真人は話をし終わると,私に強い視線を投げかけた。


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