青い空の下で
「ねえ,マスター。ここにきてよかったわ。ありがとう。」

カウンターを挟んで向かい合って,ビールを合わせながら,
この店が続いていたことに感謝した。

「なあ,倫ちゃん。ここで演奏をしないか?」

マスターの真剣な瞳に,私はためらいながら,

「今は,まだ無理だわ。娘も小さいし,それに・・・」

「それに・・・ってなんだい。」

「島に住んでるの。それに,旦那が承知するかどうか・・・」

マスターはグラスを磨きながら,

「倫ちゃんに,たっての願いがあってな・・・」

と言うと,私の眼を射るように見ながら続けた。

「この店を閉めようと思ってたんだ。もう歳だし。
 誰か跡を続けてくれるような奴もおらんしな。
 そう思ってたら,今夜,倫ちゃんがやってきた。
 最初は大泣きで何があったかと心配したんだが・・・
 これは偶然にも倫ちゃんに跡を託してみたらという
 天からの声のような気がしてな・・・急にごめんな。」

「ねえ。マスター。渉を覚えてる?
 渉は,いくつかライブハウスをしてたり,食事関係も
 手を広げたりしてるから,私から聞いておこうか?
 私,ここなくなるの。辛いな。
 マスターに会えなくなるの。辛いから・・・」

< 65 / 71 >

この作品をシェア

pagetop