青い空の下で
第18話
化粧室から出てきた私に,マスターは何も言わずに
ジンライムを出してくれた。
カウンターの隅に座った私は,一気にカクテルを喉に流し込んだ。
なきつかれた喉にひりひりとした痛みを感じた。

「倫ちゃん,久々にやらないか?」

「そうね。今夜,二度目だけど。
 もう,10年も離れてたから,腕は十分に鈍っているわよ。」

「こっちも,もう歳だからな。」

そういうと,私はピアノに,マスターはアルトサックスを手にした。

「それじゃ,september in the rain 」

私は鍵盤を上に指を走らせた。
マスターのサックスの音が交わって,徐々にお互い乗ってくる,
いきなりのマスターのアドリブに,苦笑しながら,どうにかついていった。
難しいことなんて考えない。その場の声のない音のやり取りだけに
身を置いていた。そんな懐かしい感覚がとても私を癒してくれた。
そんな穏やかなセッションを数曲重ねると,
私の中にたくさんの音が満ちてきた。


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