青い空の下で
第3話
私は,海岸に向かって車を走らせた。

窓を下ろすと,
外からまだまだ熱気を伴った風が身体にまとわりついてきた。

もう暦の上では秋というのに,
ここはまだ夏のようだった。

日差しが強く,
まだ夏の装いのままの人たちが歩いている。


私は,
まだ昔ながらの黒砂糖作りをしてる
沖ヶ浜田の海岸に向かっていた。

家からは15分もあればつく太平洋側の海岸だ。
この時間なら,ほとんど人はいないはずだ。

朝日が昇る頃は,
サーファーたちが波を待っているだろうが,
夏休みも終わり,
波乗り旅行者もだいぶ減って,
島の住民は仕事をしている時間だった。


車のハンドルを握りながら,
私の心をいっぱいにしている
真人のことを思い出していた。

時々,ふと油断すると
私を悩ますこの感情は,
自分自身なかなかコントロールすることが
難しいやっかいなものだった。
自分でもどうすることもできず,
もてあましてしまう。


それに,先週,
モモの散歩で出会った
名前も知らないあの男の声が,
真人にそっくりだったことも
私の感情を高ぶらせる一つの原因であった。



携帯の誰もしらないところに隠してある
numberを押してしまうことさえ出来ないのに,

どうして
こんなに似ている声音の人と
出会ってしまったのだろうと。

声を聞いてしまうと,
どうしても会いたくなってしまう。

だから,
過去も,
今も,
これからも,
このnumberは,
きっと携帯の奥底にしまったままなのに。



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