【長編】ホタルの住む森
「大きな枝垂れ桜の下で、ゲームをするんです。
舞い落ちてくる花びらを先にキャッチしたほうが勝ち。
負けたほうがバツゲームで相手の言うことを聞くんです」
「…どちらが勝ったの?」
聞かなくても結果は晃が誰よりも知っていた。
そのバツゲームがどのようなものだったかも、決して忘れることができない。
「あなたの勝ちでした。バツゲームは……良く覚えていません」
頬を染めて誤魔化す陽歌は、バツゲームも二人が過ごした初めての夜も、全て記憶しているのだろうと確信した。
「じゃあ…ホタルの夢をみたことは?」
「あります。ホタルが舞い踊る中であなたは結婚しようって言ってくれました。
…私はずっと迷っていました。
あなたと生きることは許されないことだと思っていました」
陽歌はその情景を思い出すように瞳を閉じた。
彼女の瞼の裏には、二人が共に生きることを誓ったあの夜の風景が写っているに違いない。
記憶が茜のものであることは疑う余地がなかった。
生まれ変りという言葉が脳裏に浮かんだ。
だがそれは陽歌の年齢を考えると直ぐに否定された。
理由は解らない。
だが、目の前に茜の記憶をもった女性が居るという事実に、体が震えて止まらなかった。