【長編】ホタルの住む森

もう一つの恋


陽歌は拓巳の腕の中で、泣き疲れて眠ってしまった。

静かにベッドに横たえると、安心しきって眠っている陽歌の額にそっと唇を寄せた。

数時間前の自分の醜態を想い出し苦い笑みが漏れる。

こんな自分のことを陽歌は許し、必要としてくれた事が嬉しくて、彼女を心から大切にしたいと思った。

淡いベッドサイドの照明のもと照らし出される陽歌の顔は青白い人形のように見えた。

拓巳は頬の涙の跡にそって指を這わせ、彼女を傷つける者は、たとえ陽歌の好きな相手であっても絶対に許さないと、強く誓った。

「陽歌、目を覚ましたら俺に全部吐き出しちまえ。
全部受け止めてやるから。お前のすべてを、俺の全身全霊で受け止めるから」

拓巳は椅子を引き寄せベッドの横に座り込むと、陽歌の左手を握り締めそっと語りかけた。

陽歌の頬を涙の粒が滑り落ちた。


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