【長編】ホタルの住む森
真っ白な世界。
まぶしい世界。
何も見えない世界。
光だけがあふれるその世界に陽歌は立っていた。
彼女がここにいるのだと、何故か解った。
ゆっくりと辺りを見渡すと、そこには優しく微笑む女性が立っていた。
艶やかな黒髪を肩より少し長く垂らし、ほんのり桜色の頬をしたその女性は黒目がちな大きな瞳をまっすぐに陽歌のほうに向けていた。
「あかね…さん?」
陽歌の問いに頷くと、茜は花が咲くように艶やかに微笑んだ。
『陽歌ちゃん…思い出して…約束したよね』
懐かしい優しい声が白い空間に響き渡る。
それは紛れもなく、両親と視力を一度に失い失意の底にいた陽歌を、いつも励ましてくれた優しいお姉さんの声だった。
「約束って…なに?」
『私はあなたにあることをお願いしたの。
だけどあなたの伯母さんは手紙を渡してくれなかった。
だから、私の最後の望みを叶えてもらうために、あなたに呼びかけ続けたの』
「…呼びかけ? それってあの夢のこと?」