【長編】ホタルの住む森
確かめたいと、右京は強く思った。
彼女は本当に茜なのか。
何故こんな形で戻ってこようとしているのか。
白いカップで琥珀色のコーヒーがゆらりと温かな湯気をたてる。
ビロードのような上質な香りのカーテンを放つ。
それは濃厚で芳醇な香り。茜の深い思いが融合された芸術品だった。
「蒼、茜は何を望み、何を求めているんだろうな。俺には見守る以外、何もしてやることが出来ないのが辛いよ」
蒼はカップを持ったまま口に運ぶ様子も無く黙って右京を見つめていた。
その様子が少しおかしいことに、気付いた右京は怪訝な顔で訊いた。
「…どうした。えらく深刻な顔をしてるな」
蒼の手を取りリビングに移動しソファーに座らせると、自分も隣に座った。
「どうしたんだ? 気分でも悪いのか」
「…私、思い出したの」
「……何の話だ?」
「多分、如月さんの記憶に関する事」
「如月さんの? 蒼、何か知っているのか?」
右京は自分の眉が寄るのを感じた。