【長編】ホタルの住む森
僕が彼女から瞳を逸らせなかったように
彼女もまた、僕の視線を受け止めたまま逸らすことはなかった
視線が絡み合う
彼女の瞳の中に、何かが揺らいだのを僕は感じた
それは僕の中に芽生えたものと同じ感情だったと思う
「君が…茜さん?」
僕の声にビクッと跳ね上がった彼女は、「はい」と小さな声で言った。
「デートって初めてなんです。今日はよろしくお願いします」
照れながら姉に少し隠れるようにして笑う茜に、ぎゅっと胸をつかまれたような痛みを感じる。
胸の奥で何かがはじけて、ギシリと運命の歯車が回る音が確かに聞こえた。