サクラサク
『果てない記憶』

18歳の記憶
彼は左利き
私は右利き
ノートをとる度に触れ合う手と手
何気なく離れていく優しさが
彼のぬくもりと、その何気なさが
泣きたくも微笑みたくもなる
訳の分からない醜い感情が一気に押し寄せてきて
ああ…これが愛する事なんだと
愛する事はきれい事ではないものだと
相手の気持ちも考えずに独占したくなるものだと
いささか感情を持て余し気味にしながら
自分が『女』になったのだと
心細くなりながらそう思った

33歳の記憶
愛されない事に慣れ
器用に苦しさを取り除いてはあきらめて
心をつぶしては笑ってごまかして
心の内をさらさずに
おとなしく大人の『女』をやっている
恋する事は辛くて、それに費やすエネルギーがない
ああ…だから愛されたいと
狡猾に蜘蛛の糸を張って待つ
汚い女になってしまった

ただ…思い出すのは、
冬の教室で一瞬触れた彼の左利きの手のぬくもり

それにしばられて私は生きていくのだ
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