林檎と、キスと。


「言わない…」

わたしは二切れ目のりんごにフォークを突き刺した。

そして、次々と湧いてくるいろんな気持ちを閉じこめるように、りんごで栓をする。


今まで食べたどのりんごよりもあまい、あまいりんごで。


「なんだよ…。気になるじゃん」

彼は頬杖をついたまま。

真っすぐな瞳で見つめてくる。


わたしは首を横に振り、かじったりんごのかけらを噛み砕く。


「これ食べたら、もう寝るから。…来てくれてありがと、ね。りんごも、……ありがと。……よいお年を」


彼に好きな人がいるとわかっていたら、電話なんかしなかった。


一年の締めくくりに、わざわざ『失恋』を選ぶなんてこと、しないよ。

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