林檎と、キスと。


「泣くなよ…」

困り果てた声でそう言った彼が腰を浮かす。

わたしはとっさに、

「ちょっ…。まっ…ま、待って…っ」

左手をピンッと前に突き出し、ストップのポーズをとった。


「…え?」

腰を浮かせたままの彼。

ストップしたまま顔を赤らめるわたし。


「……」

「あ。…えっと、その……」


“抱きしめられる”

“キスされる”


そう思ってしまったわたしは、反射的に左手を突き出していたのだった。


「う…。な、なんでもないっ」

左手を引っ込めた代わりに、右手に握っていたフォークをりんごに突き刺す。


勝手な妄想をしてしまったことよりも、自分が、

“心のどこかでは、そうなることを望んでいる”

ことを知り、恥ずかしくなったのだ。

< 17 / 20 >

この作品をシェア

pagetop