我妻教育
「どうだ、正直なところ。受ける気はあるか?」

うかがうように私を見下ろしたずねる父に、私は姿勢を正して答えた。

「はい。つつしんでお受けいたします」

「そうか…」

父がほっとしたように顔をほころばしたのを見て、私も安心した。

どうやら私は、間違えることなく、父の望むとおりの返事ができたのだろう。


「今回は一応顔合わせだけってことで、正式な婚約の話は、年明けにもう一度両家で会ってから…ってことになってるんだ。
年末まで俺も母さんも恐らく帰国できないから」

「はい」


父はコーヒーを一口飲んでから軽くソファーの背にもたれかかると息をつき、顔だけこちらに向けた。

「-で、これはあくまで俺個人の考えなんだが、正月親族の前でお前を後継者だと宣言する時に、婚約者も一緒に紹介できればいいなと思っている。
いいだろう?」

「はい」

「恐らく親父も望んでいるだろうし、そうなればきっと喜ぶだろう。
生きてる間に少しでも早く安心させてやってくれ」

「…それは…おじい様のお体悪いということですか?
昨日うかがった時は……拝見した限りですけれど、良くなられたように見受けましたが…」

「いや」

私の心配した様子を見て、父はすぐに笑って首を振った。

「医者の話じゃな、今のとこ安定してるそうだ。
安静にしてれば、急にどうこうってこともないってさ。
だが親父本人がすっかり気弱になっちまって…。
まぁ、頑健なだけが自慢だったもんだから…、すっかり今までの覇気がなくなって、おふくろもあきれてるよ。

今日の見合いも、家のことは自分が何でも決めとかなきゃ気が済まないって、わがままみたいなもんなんだ。
お前にとっちゃ迷惑なだけかもしれんがな」

父は、しょうがないといった風に頭をかきながら、上目で宙を見ている。


「私なら構いません」

「そう言ってくれると助かるよ。……だけどな、」

父は仕切り直すように背もたれから体を起こし、真面目な目をして、声も諭すような調子に変えて話を続けた。


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