我妻教育
時間はかかったものの、何とか百度のお参りを終え、神社から出ようとしたところで、神社前の駐車場に白の高級車がとまったのが、目に入った。


「ジャンか・・・」


中から、ジャンが飛び出すように降り、私に気づくと手をふり走ってきた。
いつもの陽気な笑みではない。


「学校は、どうした?」

「今日は土曜だよ」

「…ああ、そうだったな…」


私のうつろな返事に、ジャンの表情も曇る。

「ホテルに行ったら、未礼さんが、啓志郎はここにいるって聞いて・・・。
あ、未礼さん、風邪をひいてたみたいだね」


「ああ。未礼は、どうも昨夜からノドの調子が悪いようだ」



昨日の朝、私が神社で参っているのを待っていたからだろう。

未礼本人は、体調は問題ないから、今朝も神社についてくると言ったが、風邪はひきはじめが肝心である。
今日はホテルで養生しておくようにと言って出てきたのだ。

風邪気味の未礼を一人にしておくのも気がひけるゆえ、部屋を出る前に家政婦を一人つけておいた。


ジャンが、ためらいがちに言った。

「ブラザー孝市郎のニュース見たよ…」


「そうか…」

「…何と言っていいか…。
キミが今どうしてるのか気になって…。…大丈夫かい?」

首をすくめてジャンは、おずおずと聞いてきた。


ジャンは、私を心配し、この神社まで足を運んでくれたようだ。


「私は大丈夫だ」

言ってからジャンに背を向け、私は歩きだした。


「どこに行くんだい?」

ついて来るジャンの問いに、私はしばし考えた。

「どこか…」

つぶやくと、途端にジャンの顔が不安げに歪んだ。


「心配にはおよばぬ。
ただ、まっすぐホテルに帰る気になれないだけだ。
車も先に帰らせてある。少し、歩きたい気分なのだ…。
遠回りして、…そうだな、海でも見に行きたい」


「ここからだと結構歩くよ?!」

「構わない」

私は歩きだした。
迷わずジャンも追ってくる。

「ついて来ずともよい」


「いや、行くよ!久しぶりにボクも海が見たい!」

ジャンも乗ってきた車を先に帰し、私とともに歩き出した。


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