我妻教育
海岸沿いの道を、私もジャンも無口で歩いていた。

ときおり立ち止まり、海を眺めた。

海は穏やかで、水面がキラキラと乱反射し、目を細めた。

今日は小春日和だ。
午前中の、まだ強くない日差しが、やわらかく暖かい。

釣りをしている人たちの姿も見える。

世界は、のんびりとして平和だ。


こうしてぼんやりと時間を過ごしている間に、良い知らせでも舞い込んでくれたらどれだけ良いだろうか…。



「啓志郎!!消波ブロックに登らないかい?!」

急に思い立ったのか、ジャンが、軽快に消波ブロックに駆け上がった。

「おい、危険だぞ」

私の制止を聞かず、ジャンは消波ブロックの一番高いところに登って、背伸びをした。


「風が気持ちいいヨ!!・・・何だい?登らないのかい?もしかして、怖いんだろう?」

と、挑発的な目で私を見下ろした。


「そんなことはない!!」

私も駆け上る。

ほんとうだ。風が心地よい。

私たちは、消波ブロックの上で、座った。



「・・・気をつかわせて悪かったな」

海を眺めながら、ジャンに言った。
ジャンも海を眺めながら、首を横にふった。



「・・・あ、ゴメン、コールだ」

ジャンが携帯電話を片手に、一つブロックを移動した。


「・・・今日は、もう・・・うん、いいんだ・・・」

口元を押さえつつ、小声で電話に出ている。
私に聞かれると、まずい内容なのか。


そのとき、ジャンの後ろ姿を見て、突然気づいた。


薄暗い神社から離れ、海を見渡し、潮風に吹かれて、冷静さを取り戻したからなのだろうか。

なぜ今まで気づいていなかったのか、よくわからない自分にも疑問を持ったくらいだ。

とにかく今、「あれ?」と違和感に気づいた。


ジャンがジャージ姿だったのだ。
スポーツバッグも肩からかけている。


童話の王子を目指すジャンは、私服に対するこだわりも強い。
ちなみ最近のお気に入りは、白いダッフルコートなのだという。

といっても、ジャージも特注のようで、白地に白のレースとフリルが施されてはいるが。


「ジャン、今日・・・スケートはいいのか?」


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