我妻教育

3.後継者問題の一端

祖父から電話をうけてすぐ、車をとばして、とあるビルの前にたどり着いた。


見渡すかぎり、整然と高層ビルが建ち並ぶ無機質な町並み。

暗くなるのが早いゆえ、まだ5時過ぎだというのに、窓の明かりが、ビルを形どっている。


さすが、地元一番のオフィス街だ。
道を歩くのは、サラリーマンやOLらしき大人たちの割合が高い。


その街中でひときわ大きな目の前のビルを見上げた。



『啓志郎、優留を止めてくれんか?』


祖父からの命だ。




「えーっと、何階だっけ」


未礼が、ビルに入っている会社名が書かれた看板から、目的地を探している。


24階に、そのオフィスはあった。



私と未礼は、急いでエレベーターの前に行く。

エレベーターは上層階に上がっていたようだがボタンを押すとすぐに反応し、下りてきた。



「要領をえないにもかかわらず、ついてきてもらって済まなかったな」


「ううん、いいの。家で待ってても気になるだけだし…。
優留ちゃん、無茶してなきゃいいけど…」


エレベーターの中で未礼は、心配そうな顔でうつむいた。

私は、表示される階数を眺めながら、ため息をつく。

「…まったく、あいつは一体何を…」


「ねぇ、啓志郎くんは、亀集院さんに会ったことある?」


「いや、私はない。
亀集院家の次男には、父に連れて行かれたパーティで、お会いしたことはあるが、三男坊は面識がないのだ。
未礼は?」


「あたしも、三男さんには会ったことないわ。
…えーっと確か20代後半で、亀集院家とは関係のない会社で働いてるんだったよね」



亀集院家。

我が家に勝るとも劣らない名家である。


長男は政治家、次男は亀集院家の後継者。

三男は、家業から離れ、経営コンサルタントとして外資系の会社に勤めるビジネスマンである。


そして、先月その三男が、優留たっての希望で見合い相手として抜擢されたのだ。


祖父からの電話の内容によれば、
先刻、優留は祖父と電話で口論になり、そのあとこのビルに向かったのだという。


このビルに入っているオフィスに勤める、亀集院家の三男坊に会うために。
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