我妻教育
「亀集院いるんだろ!出せよ!!」

大声を出す優留に、受付嬢は困惑していた。

優留は、私よりも一本先に到着するエレベーターにでも乗っていたのかもしれない。


「ですから、さきほども申し上げましたが、ただ今亀集院は外出中で、社にはおりません。
帰社の時刻も聞いておりませんから…」


「だったら帰ってくんの中で待ってるっつってんだよ!」


「申し訳ありませんが、お約束のない方はお通しできかねます」


「どけ!」

優留は、受付嬢を押しのけ強引に事務所内に立ち入ろうとした。


「お嬢さん、ちょっと待って、落ちついて」
困った顔で警備員が、優留の腕をつかむ。


「離せよ!!!」


「お嬢さん、その制服、中学生だよね?どうしたの?
おじさんがむこうで話聞いてあげるから」

初老の警備員は、なんとか優留をなだめようとするが、
「離せよ!無礼者!!」優留はまったく聞き入れようとしない。


あろうことか、優留は、持っていたかばんを警備員めがけて振り上げた。


「優留!!やめろ!!何をしているのだ!!」


「…!!啓志郎!!お前なんでここに…?」


間一髪、私は、優留のかばんをつかんだ。


「お騒がせして申し訳ない。すぐに引き取らせてもらう」

警備員と受付嬢に頭を下げ、優留の腕を取った。

「おじいさまから聞いて来たのだ。何があったか詳しくは知らぬが、こんなところで騒ぐと迷惑だ。帰るぞ」


「啓志郎、お前には関係ない!まだ用は済んでないんだよ!!」

優留は、私の腕を振りほどく。


そのとき、受付嬢が何かに気づき、入り口の自動ドアのほうに視線をむけた。

スーツ姿の2人組の男性が、オフィスに入ってきたのだ。


優留の表情を見て気がついた。


2人組の男性のどちらかが、亀集院の三男坊だ。
外出先から戻ってきたのだ。


「待て、優留!」

優留は、私の制止を振りきり、まっすぐ男に向かって行く。

「優留ちゃん、待って…きゃっ!」

優留をとめようとした未礼もあっさり突き飛ばされる。
広いともいえない廊下。未礼は軽く壁にぶつかった。

「未礼!」


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