我妻教育
祖父と優留の口論の内容までは、くわしくは説明をうけていない。


祖父からの命は、

『亀集院家の三男の勤める会社に、優留が押しかけようとしているから、阻止して欲しい』
というものだった。



先月の松園寺優留と、亀集院家三男との見合いは、結局延期されたのだという。


延期の理由は、松園寺孝市郎(我が兄。優留にとっては従兄弟)の誘拐事件だ。

誘拐という非常事態に、見合いなどしている場合ではない、という両家のもっともな判断だ。


延期された見合いの件について、優留と祖父の意見がかみ合わなくなったらしい。

そして優留は、三男に直接話をする、と言って祖父の家を飛び出したのだという。



私は、祖父から三男のオフィスの所在地を聞き、今まさにオフィスにたどり着くエレベーターに乗っている。


「優留ちゃん、もうついてるのかな」


「…我々も、祖父の電話をきってからすぐに家を出たとはいえ微妙だな…。
優留よりも先についていることを願うのみだ」



いったい何だというのだ。
何があったのだ。

とにかく優留を連れ戻せ、というのが祖父の命ゆえ、従うしかないのだが…。

私ではなく、使用人に任せればよいものを、わざわざ私を指名するとは…。


私の器量が試されている。


ならば、立派にその命を果たすことが私の使命だ。



エレベーターの扉が開いた。



エレベーターを出ると、すぐに受付があり、オフィスに入る自動ドアがある。

この一つのオフィスが、フロアを占めているようだ。

有名な外資系のオフィスらしく、高級感のある内装。


受付嬢の姿がない。


やむを得ず、自動ドアを通りオフィス内に入った。


自動ドアを抜けるとすぐに、仕事場、というわけではなく、実際に社員が仕事をしている事務所までは、長い廊下を通った先にもうひとつ入り口があるようだ。


優留がまだ来ていないことを願っていたが、その期待はすぐに外れる。


廊下の先に、優留と、受付嬢、警備員がもめている姿が目に入った。
< 198 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop