我妻教育
「あ、あたしは大丈夫」

未礼は、ぶつけた腕を押さえながら、心配そうに優留の姿を目で追っていた。



「…君は…」

2人組の男のうちの一人が、優留に気づいた。


優留は、迷うことなく、その男に詰めより、
「どういうことだよ!!」

叫ぶように声をあらげ、男のネクタイをつかんだ。

その男が亀集院の三男坊か。



私は、優留の剣幕になすすべなく、未礼とともに立ち尽くし、様子を見守るしかなかった。


優留が、何をしようとしているのか、まず把握することが先決だったからだ。
話が見えないうちは対応しようがない。



亀集院三男坊の横にいた、もう一人の男は状況が飲みこめずに、優留と三男を交互に見ている。


だが、当の三男坊本人は、別段あわてる様子もなく、
「大丈夫だ。気にするな。先に上がってくれ」

と横の男に言うと、自らに詰めよっている優留に顔を向けた。


緊迫した空気が流れた。


いや、緊張したのは、我々傍観者で、三男坊は、いたって平静だった。


今まさに自分の胸ぐらをつかんでいる女子中学生に対し、怒りを見せるどころか、慈しみすら感じる瞳で見ている。

慈しみと言ってもどうやらそれは、別に優留に情があるから、というわけでもなさそうだが。


その証拠に優留は、その瞳に若干気おされたようだ。
きまりが悪そうに、胸ぐらから手を離した。



亀集院家の三男坊。
名前は、亀集院翔太。


優雅なくらい落ちついた男だ。



いかにも東洋人男性といわんばかりの、すっきりと凛々しい顔立ち。
清潔感のある短い頭髪。

スポーツでもたしなんでいるのだろうか、背も高くガタイもよい。

黒いスーツに身をつつみ、アタッシュケースを持っている。
いかにもデキるビジネスマン、という風貌。


ぱっと見は、なかなかの好青年で、醸し出される上質さは、さすがは御曹司だ。



三男坊は、わずかばかりも気を乱すことなく、何ごとでもなかったかのように、堂々とした所作でスーツの乱れを正した。


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