我妻教育
「カレー…カレー食いたくなったな」桧周が返す。

「だね」と未礼。

「それじゃ、カレーでいい?」

九地梨が確認をとるように皆に尋ねる。

異議はでない。


「じゃ、カレーってことで」

そう言うと、釈屋久は勢いよく携帯電話を閉じると、かばんを手にとり立ち上がった。


未礼は「バイバ〜イ」と手を振っている。

釈屋久は、それに応えるように手を挙げるが、一度も振り返ることなくスタスタと教室を後にした。

「じゃあ僕も部活があるから失礼するよ。
啓志郎くん、またね」

九地梨も立ち上がる。


どうやら、いつの間にか文化祭の出し物が決まったようだ。


「オレらも帰んぞ。
お前もとっととそれ食っちまえよ」

立ち上がりながら桧周は、未礼の左手の魚肉ソーセージを指差した。


魚肉ソーセージにかじりつきながら未礼は、私に言った。

「啓志郎くんも一緒に帰ろ♪」

私が「ああ」と返事をする前に、足元にあったごみ箱を足で「ほら」と差し出しながら桧周は、
「バカ言ってんな」と未礼に言い放った。

「坊ちゃんがバスなんかに乗れる訳ねェだろが」


「あ、そっか…」

未礼が、しまったという顔をした。


「バス?いつもバスで帰っているのですか?」

私は未礼を見上げる。


「うん、そうなの」

「カキツバタ商事のお嬢様とあろうお方が、送迎もなしに?」

「うち、放任主義だから」

あっけらかんと未礼は笑う。

新聞で読んだのだが、総合商社のカキツバタ商事は、大学生が選ぶ就職先で、常に人気トップを争うほどの会社である。

その社長令嬢が…。


「坊ちゃんはバスなんか乗ったこともねーだろ。無理だって」


「…何だと!?」

無理だと決めてかかられると腹が立つのが私の性分なのだ。
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