我妻教育
未礼の祖父は、上品で穏やかな口調で、まぶしそうに目を細めて微笑みながら語りかけてきた。

「啓志郎君と会うのはこれが初めてだけれども、私と啓志郎君のおじいさんは、学生の頃の友人でね。
その縁もあって、今回のお話をいただいたんですよ」

「はい、存じています」

祖父同士が旧友でも、未礼とその家族に会うのは初めてだった。


厳格で、威厳に満ちた面持ちで、相対する者に威圧感を与える性質の私の祖父とは対照的に、
未礼の祖父は、しゃべり方通りのとても寛厚そうな人だった。


未礼の父は、下がった目尻が人の良さそうな愛想の良い人で、誰よりも一番この見合いを快く承知しているように見えた。

それはもう、大賛成といっていいくらい上機嫌で饒舌で、低姿勢に、私の父に酒を注いでいる。
 

未礼自身は、終始口数少なく、笑顔を絶やさず、といった様子で、写真から見てとれた、つんと澄ました感はなく、ふんわりとした柔らかい雰囲気を漂わせていた。

見る限りにおいては、緊張感は特にないようだったが、出された食事にはほとんど手をつけておらず、周りの会話を聞きながらただにこやかに相づちを打っていた。




「少し二人で話してみたら?」

親たちの提案もあり、咲き始めたキンモクセイが淡く香る料亭の庭園を二人並んでそぞろ歩く。


今日の日中は半袖でも過ごせる気温だという天気予報通り、冬用のスーツは少々蒸し暑い。


ちらりと横目で未礼の様子をうかがった。

手入れの行き届いた日本庭園は、静寂に包まれていて、どうも決まりの悪さが際立つ気がしてならない。 







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